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“顔”を印刷したTシャツで顔認識システムをだませる? 実在しない顔をAIで生成、Tシャツ100枚で検証Innovative Tech

» 2023年06月14日 08時00分 公開
[山下裕毅ITmedia]

Innovative Tech:

このコーナーでは、テクノロジーの最新研究を紹介するWebメディア「Seamless」を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。Twitter: @shiropen2

 ドイツのHochschule DarmstadtとスイスのIdiap Research Instituteに所属する研究者らが発表した論文「Attacking Face Recognition with T-shirts: Database, Vulnerability Assessment and Detection」は、顔写真がプリントされたTシャツで顔認識システムを欺くプレゼンテーション攻撃(物理的な偽物で生体認証を欺く攻撃)を検証した研究報告である。ターゲットの顔がプリントされたTシャツで顔認識システムを欺けるかを調査する。

ターゲットの顔画像をTシャツにプリントする方法で顔認識システムを欺くプレゼンテーション攻撃

 この攻撃を検証するために研究チームは、異なる顔の写真をプリントしたTシャツ100枚を用意する。プリントする顔画像は、画像生成モデル「StyleGAN」でランダムに生成した実在しない顔。顔画像は性別や肌色、年齢をランダムに散らしており、顔の角度や照明も調整されている。

 このように作った「敵対的Tシャツ」を参加者8人に着用してもらい、1枚のTシャツにつき、8種類のポーズ(上下左右を向く、手で顔を隠す、フェイスマスクを着用など)をとってもらう。撮影は可視光(RGB)と深度データの両方で行う。

 これらの撮影した画像を使用して、合計1608件の画像を含む、Tシャツ顔プレゼンテーション攻撃データベース(T-shirt Presentation Attack Database、TFPA)を作成する。

攻撃の一例
1枚のTシャツに対し、8つのポーズを検証

 実験では、まず作成したデータベースを3つの顔検出アルゴリズム(RetinaFace、MTCNN、dlib)を使用して、プリントした顔が検出可能かどうかを分析する。結果として、8つのポーズ全てにおいて、3つの顔検出アルゴリズムの平均検出率は99%であり、Tシャツの顔がほぼ全てのケースで正常に検出できた。

 次に、顔認識システムへの攻撃の成功率を分析し、顔認識システムの脆弱性を評価する。評価の結果、Tシャツの顔が正しく検出された場合、攻撃の成功率は92.6%以上と非常に高いことを示した。

 なお、顔検出システムが本物の顔とTシャツの顔を同時に検出する場合、エラーが発生する可能性が高くなる。このようなシステムでは、この研究で示したように、顔をフェイスマスクで隠す、または手で本物の顔を隠すことによって成功率を高められる。

顔を検出している様子

Source and Image Credits: M. Ibsen et al., “Attacking Face Recognition with T-shirts: Database, Vulnerability Assessment and Detection,” in IEEE Access, doi: 10.1109/ACCESS.2023.3282780.



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