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「自社版ChatGPT」をグループ全社導入 約1万5000人で2カ月使った手応えは? ベネッセに聞いた(2/2 ページ)

» 2023年06月19日 10時00分 公開
[吉川大貴ITmedia]
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開発のきっかけは「スマホ時代の反省」

 ベネッセはこのままAIを使ったさらなる業務効率化を進める……と思いきや、少なくとも当座の目標は別のところにあると植田さん。ベネッセがAIを早期に導入した真意、それは「スマホ時代の反省」にあるという。

photo 植田省司さん

 「ベネッセはスマホが普及したときに歯がゆい思いをした。当時、大きいサービスを持っていたにもかかわらず、変化についていけず、縮小させてしまった反省がある。一方で、スマホのような目新しいテクノロジーはどんどん出てきている。何にでも飛び付けば良いわけでもなく、目利きが求められる。そこで必要なのは、一刻も早く社員にAI・ChatGPTを使ってもらえるようにすることだった」(植田さん)

 ChatGPTの登場以後、社内でも利用について議論があったという。そこで出た意見は「やはりAIはスマホやインターネットのように普及する技術になるのでは」だったと植田さん。であれば当然、スマホ時代の反省を生かし、1日も早く業務効率化やサービスへの組み込みを進めるのが筋だろう。しかし、ChatGPTが本当に見立て通りの技術になるかは分からない。

 そこで、まずは社員が手元で使える環境を構築。将来的には新事業や効率化への活用を視野に入れつつ、実際に使ってもらうことで、とにもかくにもまずチャットAIに対する“解像度”を上げてもらう──というのが、BenesseChat開発の狙いだったという。

 「『メディアがたくさん取り上げているからうちもやろう』『○○君、AIってのがはやっているからうちもやろうよ』が一番ダメだが、大抵そうなってしまう。そうではなく、社員が1日も早く使ってもらって、いい悪いを判断してもらおうと思った」(植田さん)

利用データも成果に コストやサーバ構成の知見たまる

 グループ社員にチャットAIを体感してもらう目的でBenesseChatを開発したベネッセ。特にITエンジニアからは感謝の声が大きく、当初の狙いが達成できた手応えを感じているという。

 一方で植田さんは、今後実際にAIを活用することになったとき、役立つであろうデータも集められていると自信を見せる。社員が社内チャットで日々やりとりしている情報はもちろん、ユーザーからのリクエスト数に対して必要なサーバの数や構成、コスト感といった数値が取れているという。

 「誰だって、新しいものを一番に作るのは嫌。実績がなければ相当なシミュレーションやテストが必要なので、この数字を持っているのと持っていないのではかなり違う」(植田さん)

今後も利用 ただし“かじ取り”は慎重に

 今後もBenneseChatを利用し続ける方針のベネッセ。ただし、機能拡充やチャットAIを活用していく分野については、注意していきたい箇所がいくつかあるという。

 1点目は、一度に入力できる文字数のコントロールだ。当初のBenesseChatは一度に1000文字程度しか入力できない仕様だった。しかし社員の利用状況を見つつ徐々に拡張。現在はより多くの文字を入力できるという。

 植田さんが字数を一気に引き上げないのは、コストへの影響を懸念してのものだ。日本語の場合、Azure OpenAI Serviceのコストは1文字ごとにかかる。最初から多くの文字を入力できると、“コピペ”で大量の文字を入れる人が出かねない。

 Azure OpenAI Serviceのコスト自体は、ビジネスを圧迫するような規模ではなく「無視できる範囲」と植田さん。とはいえ、提供基盤であるAzureそのもののコストはかかるし、大量のコピペを前提とした使い方が当たり前になってしまうのは今後のためにもならない。そのため、コストを週次で監視しながら少しずつ上限を上げていく方針という。

 2つ目は、どんな用途での利用を認めていくかの方針だ。植田さんによれば、社内からは「プログラミング時、コードの修正で使いたい」「イントラネット内の情報を検索できるようにしてほしい」という要望が多いという。しかし、植田さんは2つの使い方に否定的で、要望にも対応していない。

 まずコードの修正については、すでに導入しているプログラミング支援ツール「GitHub Copilot」で事足りるというのが植田さんの意見という。「何でもかんでもBenesseChatに入れて良いわけではないし、BenesseChatを使えばいいというわけでもない。専用にチューニングされたものを使った方が便利。適材適所でやっていくべき」(植田さん)

 イントラネット内の検索については「Microsoftが数年以内に解決してくると思う。イントラネット内の情報に基づいてメールを下書きする機能や、資料を探す機能を作っても、Microsoftから同じものが絶対に出てくる。であれば、その時間をベネッセじゃないとできないことに充てた方がいい」(植田さん)という。

 「技術は人気が上がるときもあれば、下がるときもある。ユーザー企業から見たときも同じで、お客さんにサービスを提供する中で、特定のテクノロジーをことさらに持ち上げたり、下げたりする必要はない。あるテクノロジーを使って課題をどう解決するかがわれわれの仕事。AIの潮流に一喜一憂するのではなく、あくまでAIをどう使っていくのかにフォーカスして開発を進めていきたい」(植田さん)

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