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映像制作のクラウド化に一旗揚げた「Dropbox」 コラボレーションツールで何ができる?小寺信良の「プロフェッショナル×DX」(1/3 ページ)

» 2023年06月28日 15時00分 公開
[小寺信良ITmedia]

 映像制作において、ネット配信やYouTuberのようになんでもかんでも一人でやってしまうような業態が生まれたのは比較的最近の事である。その理由としては、ネット配信であればスマホ1台から可能になった気楽さや、機材価格の低下、映像のファイル化により信号管理の必要がなくなったことなどが上げられる。

 ただ、映像を量産したり、収益を上げるために一定以上のクオリティーが必要になった場合には、複数人でチームを組んで動いた方が効率化が計れるのは、今も昔も同じである。

 特に編集というのは時間がかかるもので、かつてテープ編集しかない頃は、1時間番組ではオフライン編集で3日、オンライン編集で24時間徹夜というスケジュールが当たり前だった。映像編集者は今日初めて会ったディレクターらと、文字通り1日中一緒に居るという、濃密なコミュニケーションによって成り立っていた。ノンリニア編集になって以降は、多少の効率化は図られたものの、基本的な構造は同じだった。

 ところが2020年から始まったコロナ禍により、1日中他人同士が狭い部屋の中で顔を突き合わせて作業するというのが難しくなった。当然、リモートワークの可能性が模索されたわけだが、専用ツールがあるわけでもないので、当初はZoomなどの会議システムを使って、編集室とディレクター宅を結んで作業するといった業態を、手探りで構築していくしかなかった。

 リアルタイムなら、意外にこれでもやれるものである。もちろん、ディレクターも編集者も、お互いプロとしてのあうんの呼吸があってのことだが、こうしたリモートプロダクションは、今ではある程度方法論も見えてきており、東京のポストプロダクションが地方の仕事をリモートで受託するなど、これまでになかった業務展開を可能にしつつある。

 ただこうしたリモートワークは、結果的には1日中リアルタイムで貼り付いていることになり、単に場所が変わっただけで、通常のポスプロ作業と変わりない。一方小規模なネット配信などでは個人がチームを組むケースも多い事から、ある程度編集者に構成を任せて、粗く編集したものをディレクターが見て指示を出し、次第に細かく調整していくという手法で制作される。

 こうした、ある程度編集者に権限を与えて構成を任せるという方法論は、日本の放送局ではNHKで早くから実践されてきた。筆者の経験では、ニュースなら1日、15分番組なら3日、30分番組なら1週間程度、編集者は一人で番組を編集する。期日終盤にディレクターやプロデューサーと試写をして修正しつつ、完成まで仕上げていく。

 これはフリーランスが多い、アメリカ型のニュースプロダクションや映画制作の方法論を直接導入したからである。反面民放ではディレクターに多くの裁量権が集まっていることから、いまだこの方法はあまり採用されていないようだ。

Dropboxが作った「コラボレーションツール」

 前置きが長くなったが、こうしたリアルタイムではないコラボレーションツールとして、Dropboxが21年10月に公開したのが、「Dropbox Replay」である。ながらくβ版による無償公開を行なってきたが、23年4月より正式に、Dropboxの各プランのアドオンとして販売を始めた。すでに何らかの有料プラン利用者であれば、年間プランの場合は月額1200円、月払いの場合は月額1500円(いずれも税別)の追加料金で利用できる。

「Dropbox Replay」

 比較的早い段階での公開であったことから、すでにAdobe Premiere Pro、Blackmagic Design DaVinci Resolve、LumaFusion、WeVideoが対応している。Apple Final Cut Proも近日サポートの予定だという。

 一言でコラボレーションツールというが、その用途や機能は幅広い。Adobe は21年10月に、独自のクラウドコラボレーションツールを開発していたFrame.ioの買収を完了。翌年4月には、Premiere ProとAfter Effectsにデフォルトツールとして搭載した。

 Blackmagic DesignのDaVinci Resolveは、22年4月公開のバージョン18より、Blackmagic Cloudを搭載した。ただこれはアノテーションツールというより、同じプロジェクトを同ソフトユーザーがクラウド経由で共同作業できるという、技術者寄りの機能である。例えば編集が終わったあと、別のスタジオにいるミキサーにMA作業を任せるといった、リレー制作方式になる。

 Dropbox Replayは、素材やプロジェクトの共有というよりは、プレビューにアノテーションを書き込むことでコミュニケーションを図るというツールになっている。DaVinci Resolveではすでに21年10月公開のバージョン17.4からサポートしている。ソフトウェアの中にコラボレート機能がすでに内蔵されているので、別途プラグインなどを入れる必要もなく利用できる。

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