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「生きたデジタルカメラ」――“DNA”でカラー画像を撮影、96ピクセルで記録 -20度で凍結保存も可能Innovative Tech

» 2023年07月18日 08時00分 公開
[山下裕毅ITmedia]

Innovative Tech:

このコーナーでは、2014年から先端テクノロジーの研究を論文単位で記事にしているWebメディア「Seamless」(シームレス)を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。

Twitter: @shiropen2

 シンガポール国立大学に所属する研究者らが発表した論文「A biological camera that captures and stores images directly into DNA」は、DNAでマルチカラー画像を直接記録する手法を提案した研究報告である。2次元の光パターンをDNAに取り込み、96ピクセルで保存し取り出せる。

BacCamのワークフロー。「BacCam」という画像データを保存し、取り出している

 DNAは、生命のさまざまな機能を果たす多数のタンパク質をコード化する遺伝情報のストレージとして機能する。また、4つのヌクレオチド(ATCG)からなる単純な繰り返しコードとともに、情報を保持する能力を持っている。

生命のさまざまな情報保護のストレージである「DNA」

 このDNAの特性は、デジタル情報ストレージの一形態として提案され、その後研究が進められてきた。研究者たちは、DNA内の光の有無を記録できる光遺伝学的回路を持つ細胞を用いることで、デジタルカメラのような機能をDNAに与えることができると考えた。

 「BacCam」と呼ばれるこのアプローチは、画像などのデジタル情報をDNAに保存する手段として、空間情報と光による入力信号の両方をDNA自体に直接取り込むワークフローを提案する。

 BacCamは、青色光の有無に応答する青色光応答性リコンビナーゼ・システムを使って、外部シグナルとしての青色光をDNAに記録する。このシステムによって、視覚情報をDNAに符号化し、画像を取り込める。

 さらに、別の赤色光システムを使用することで、2つの画像チャンネルを同時にエンコードできるように設計されており、マルチカラー画像の撮影もできる。

複数の色の光を使ったBacCamワークフロー

 次に、記録されたシグナルとともに空間情報のコード化を可能にするため、光照射の記録を持つ細胞を含む個々のウェル(ピクセル)の区別を可能にするバーコード方式を導入する。これにより、各画像は、コード化されたDNAを含む細胞が存在する特定のウェルと確実に関連付けられる。

 今回は、Opto-Cre-VvdとLoxP遺伝子回路を持つ細胞を含む96ウェルプレート(96ピクセル)が、それぞれ固有の識別子を持ち、光照射に対応する情報を記憶する。このリコンビナーゼベースのDNAレコーダーにより、空間情報を保存できる前述のバーコード方式と相まって、空間情報だけでなく、光を介した入力信号の両方をDNAそのものに直接取り込むことが可能になる。

 また、教師なしクラスタリング・アルゴリズムの使用は、撮影画像を正確に再構成するのに役立ち、保存されたデータを効率的に取り出せる。このようにして得られたデータは、室温の卓上で乾燥した形で堅牢に保存することも、-20度の冷蔵庫で凍結保存もできる。

 さらに、データ保存においては、1つの画像だけでなく複数の画像を同時に記録することも実証されている。具体的には、NUS、SYNCTI、BacCam、Smiley、"Hello world!"という5つの画像データセットを記録し、保存・検索することに成功した。

NUS、SYNCTI、BacCam、Smiley、“Heloo wo{|d!’の5つの画像セットを用いた保存と検索

Source and Image Credits: Lim, C.K., Yeoh, J.W., Kunartama, A.A. et al. A biological camera that captures and stores images directly into DNA. Nat Commun 14, 3921(2023). https://doi.org/10.1038/s41467-023-38876-w



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