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耳の穴に入れる、らせん状の脳波計測器 脳とコンピュータを接続 中国の研究者らが開発Innovative Tech

» 2023年08月02日 08時00分 公開
[山下裕毅ITmedia]

Innovative Tech:

このコーナーでは、2014年から先端テクノロジーの研究を論文単位で記事にしているWebメディア「Seamless」(シームレス)を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。

Twitter: @shiropen2

 中国の清華大学などに所属する研究者らが発表した論文「Conformal in-ear bioelectronics for visual and auditory brain-computer interfaces」は、装着者の内耳を通して人間の脳をコンピュータに接続できる非侵襲的なインタフェースを提案した研究報告である。

らせん状になって耳の穴で固定される

 近年、耳に関するBCI(Brain-Computer Interface)が注目されるようになったのは、毛のない部位でゲルフリーで取得できるという利点があること、非侵襲的な脳波(EEG)信号の取得により、日常生活で使用されるウェアラブルで目立たないモニタリング・エレクトロニクスの開発が可能になること、といった多面的な利点があるためである。

 しかし、耳からBCIを接続する現在の方法には、耳栓で塞いだり、3Dプリンタで作られたアタッチメントのようなサポートシステムを必要としている。

 この研究で提案する「SpiralE」という、らせん状のデバイスは、アタッチメントが不要であり、装着者の聴覚に影響を与えずに、スライドさせて簡単に装着や取り外しができる。SpiralEは電気熱作動下で適応的に拡張し、聴覚肉腔に沿ってらせんを描けるため、肉腔に過度な圧力をかけずに適切な接触を確保する。

 その結果、接触面積が小さく、弾性率が低いため、外耳道の内壁に対する摩擦が低減され、装着者の外界とのコミュニケーションに影響を与えずに、EEG検出層を通じて脳波の記録が可能だ。

耳の穴に入れたSpiralEで脳波を計測

 SpiralEを評価する実験では、定常状態視覚誘発電位(SSVEP)において、キャリブレーション不要な40のターゲットで75.57%の分類精度を達成した。さらに、SpiralEの中空性により、カクテルパーティー実験では自然な音声の聴覚分類精度が84%に達した。

Source and Image Credits: Wang, Z., Shi, N., Zhang, Y. et al. Conformal in-ear bioelectronics for visual and auditory brain-computer interfaces. Nat Commun 14, 4213(2023). https://doi.org/10.1038/s41467-023-39814-6



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