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空腹を操作できる飲むカプセル 胃の中で電気刺激 吐き気の緩和も可能 米MITなどが開発Innovative Tech

» 2023年05月08日 08時00分 公開
[山下裕毅ITmedia]

Innovative Tech:

このコーナーでは、テクノロジーの最新研究を紹介するWebメディア「Seamless」を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。Twitter: @shiropen2

 米マサチューセッツ工科大学(MIT)、米ブリガムアンドウィメンズ病院、米ニューヨーク大学に所属する研究者らが発表した論文「Bioinspired, ingestible electroceutical capsules for hunger-regulating hormone modulation」は、胃の中で電気刺激を与えられるカプセル型デバイスを提案した研究報告である。

 このデバイスは、電気刺激によって消化管ホルモンを制御することで、空腹感の操作や吐き気を緩和させることができるという。

摂取可能なカプセル型デバイス

 胃から分泌される「グレリン」などのホルモンは、食欲を増進させる重要な役割を担っている。これらのホルモンは、内分泌細胞から分泌され、腸管神経系の一部として、空腹感や吐き気、満腹感をコントロールしている。

 この研究では、口から摂取できる経口カプセルに電流を流すことで、内分泌細胞を刺激してグレリンを生成する非侵襲的アプローチを提案する。摂取したカプセルは胃の粘膜に電気刺激を伝え、グレリン放出を誘発させる。

 カプセルの表面は、ワイヤがらせん状に巻かれ、親水性コーティングが施された溝で構成される。この溝は、胃液が邪魔をして粘膜に電気刺激を与えにくい状況を改善するアプローチとして導入している。溝が胃液を吸い上げ、胃の組織と電極の適切な接触を確保して確実に電気刺激を与えることができる。

カプセルの外側に溝を付ける方法で、胃液を吸収し粘膜との接触を確保して電気刺激を伝わりやすくしている

 カプセル内部には、バッテリーで駆動する電子回路があり、カプセル表面の電極に電流を発生させる。今回のプロトタイプでは、外側に巻かれたワイヤに沿って電流を常に生成し、約1時間刺激を与え続けることができる。将来のバージョンでは電流をワイヤレスでON/OFFできるように設計することも可能だという。

カプセルの内部構造

 実験では、一晩絶食し、麻酔薬を与えた13匹の豚でカプセルをテストした。豚11匹には20分間の刺激を与え、他2匹は刺激しなかった。刺激の前後でグレリンの血中濃度を測定した結果、平均して刺激を受けた豚ではグレリンが約40%増加したのに対し、刺激を受けなかった豚はグレリンが約50%減少した。

 今後は、この手法を人体の消化管で実験したいとしている。この治療法が開発できれば、悪液質患者(がんやその他の慢性疾患の患者に起こりうる体格の減少)や摂食障害、食欲不振患者、吐き気防止、食欲増進の治療に役立つ可能性がある。

Source and Image Credits: Khalil B. Ramadi et al. ,Bioinspired, ingestible electroceutical capsules for hunger-regulating hormone modulation.Sci. Robot.8,eade9676(2023).DOI:10.1126/scirobotics.ade9676



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