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買えないSuicaカード、広がる「クレカのタッチ乗車」 Suicaの未来はどうなる?(3/5 ページ)

» 2023年08月29日 14時00分 公開

ICカードの必要数を見誤った2つの要因

 本来であれば、JR東日本など交通事業者は毎年どの程度のSuica(交通系ICカード)が販売されるかを予測して事業プランを立て、必要数を発注する手はずになっているため問題ないが、今回は2つの要因からその前提が崩れた。

 1つは前述の半導体不足で、おそらく従来であれば問題なかった定期的な発注に対し、委託していた製造工場が別の会社からの依頼によってラインを先に押さえられてしまい、Suica発行に必要な半導体チップの製造に取り掛かれないのではないかというもの。委託先が1つしかないため、製造に取り掛かれないという問題を回避できず、先方から納品が行われるのを待っている状況ではないかという予想だ。ラインが空いて必要数が確保できるまで納品が進まないため、現時点で明確な販売再開時期を発表できないのではないだろうか。

 理由の2つ目は、急増するインバウンドだ。日本国内であれば通勤・通学の定期券需要のほか、無記名や記名式Suicaが一定数ほど定期的に出ていくため、新規発行に必要なカード枚数は予測しやすい。ただ、日本国内での行動制限が2023年頭にほぼ解除されたことを受け、諸外国からの訪日客が急増している。日本での行動には実質的に交通系ICカードの有無がその利便性を決めるため、到着時の購入は必須だ。

 ここで想定以上のカードが販売されてしまったことで、2024年の春シーズンの定期券発行に必要となる枚数を最低限確保しつつ、交換や再発行要請に対応する必要のある記名式Suicaの必要枚数を各駅にストックすることを計算して、最初に無記名Suica、次に記名式Suicaの順で販売を停止したというのがその流れだ。現在は定期券や訪日外国人向けのWelcome Suicaなどが販売されるのみで、現状のストック数を保持することで凌いでいるわけだ。

 なお、特例として、青森、盛岡、秋田など、23年5月から新規にSuica対応エリアとなった東北3県では、現在もなお無記名ならびに記名式Suicaの販売が継続されている。現地での利用促進のためということで、販売すべきSuicaがまったくなくなってしまったわけではない。むしろ、24年の春シーズンに備えてなるべく数を減らさないようにしているだけだ。

23年5月に新たにSuicaエリアになった弘前駅で無記名Suicaを購入。これら東北3県のエリアでは現在でも販売が継続されている

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