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買えないSuicaカード、広がる「クレカのタッチ乗車」 Suicaの未来はどうなる?(4/5 ページ)

» 2023年08月29日 14時00分 公開

「クレカのタッチ乗車」はSuicaを置き換えるのか

 今後の見通しだが、おそらく半導体不足は短期的な要因にすぎないため、そう遠くないタイミングで供給は改善される。これを機会に「Suica(を含む交通系ICカード)を置き換え」のような機運も別に起きないと思われる。

 ただ、今回の1件で“交通系ICカードが必要としているFeliCaチップ”に調達上のリスクがあることが顕在化したのは大きいだろう。これはJR東日本自身が一番実感していると考えられ、今後の戦略に影響を及ぼす可能性は高い。

 なお、今回販売制限がかかったのはSuicaとPASMOの東京首都圏の交通系ICカードのみで、他社からは同様の発表が行われていない。これは単にSuicaとPASMOを除く他社のカード発行枚数が圧倒的に少ないからで、インバウンド客の多くが東京に到着してSuicaやPASMOを入手していくことを考えれば、カードの新規発注を行うほどの需要もないのだと考えている。

 JR東日本は、Suicaを同社の経済圏の中核の1つとして捉えており、24年から順次スタートする「QRコード」を用いた新しい改札システムにおいても、いわゆるオープンループのような「クレジットカードの“タッチ”動作で乗車」する仕組みの導入は現時点で考えていない。QRコードはモバイルアプリを使った企画乗車券や長距離での移動の際の事前購入乗車券の利用を前提としたもので、主要エリアでの主役はあくまでSuicaのままだ。

 ここで重要なのは“Suica”にこだわっているという点で、別に“FeliCa”という技術に固執しているわけではない。この点を踏まえると、今回の事件がJR東日本の将来的な判断に何か影響を与えるのではないかというのが筆者の意見だ。

 Suicaをはじめとする交通系ICの置き換えが進まない最大の理由としては、「すでに広く普及したインフラ」という部分が大きい。「1分間に60人の通過をさばける高速動作」は要素の1つにすぎず、普及したインフラからの移行には各社が一斉に動かざるを得ず、トラブルを最小限に移行するためには、まだまだ時間がかかる。

 Suicaを使った既存の改札システムもすでに枯れた技術であり、現在は改札処理で最も複雑で時間のかかる「料金と経路計算」をサーバでの集中処理に置き換えたクラウド型へと移行しつつある。同じSuicaではあるものの、中身は少しずつ変化しており、新しい仕組みへと移行することで可能になるサービス(例えばQRコード乗車が典型例)もあり、いつまでもまったく同じ仕組みで良いわけではないというのは各社共通の考えだ。

東急田園都市線で改札機に設置されるクレジットカードとQRコードリーダー(準備中)
別の視点から。手前側がQRコードリーダーで、その1つ奥がクレジットカードリーダー

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