このコーナーでは、2014年から先端テクノロジーの研究を論文単位で記事にしているWebメディア「Seamless」(シームレス)を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。
Twitter: @shiropen2
米カリフォルニア大学サンタバーバラ校に所属する研究者らが発表した論文「Analysis of Keller Cones for RF Imaging」は、Wi-Fi信号のみを使用して壁越しの静止物体の高品質なイメージングを可能にするシステムを提案する研究報告である。この方法は、物体のエッジ(端)を読み取ることに焦点を当て、Wi-Fi信号だけを利用して壁越しのアルファベットを特定することに成功した。
これまでにもWi-Fiの信号のみで物体を画像化する方法は存在したが、それは動いている物体に限られていた。今回の研究は、これまで難しいとされていた複雑な形状の静止物体の画像化に取り組んだ。
静止物体の撮像は、シーン理解、特にスマートホーム、構造物のヘルスモニタリングや捜索救助、監視、掘削などのアプリケーションにとって重要である。
「Wiffract」と呼ばれるこの新しい方法は、物体全体に焦点を当てるのではなく、物体のエッジ(端)に焦点を当てることで実現する。具体的には、Wi-Fi信号が物体に当たった際の幾何学的回折理論による円すい状に広がる現象(ケラーコーン)に注目した。
研究チームは、Wi-Fi信号が物体のエッジに当たる際に広がるケラーコーンを利用し、割り出されたエッジ情報から物体の形状を再構築するアルゴリズムを開発した。また、Wi-Fiだけでは捉えきれない「見えにくい」箇所を補完する方法も考案し、欠けている部分を埋めることで画像の品質を向上させた。
Wiffractの性能を評価するため、6つの無指向性Wi-Fiアンテナ(アンテナタワー)が取り付けられた移動車両を開発した。このアンテナタワーはモーターで上下に動かすことができ、また車両自体を左右に動かすことで2Dの範囲をスキャンできる。
この移動車両を使って、壁越しのアルファベットの読み取りの実験を行った。その結果、Wi-Fiの信号を使って物体や文字の位置を正確に特定可能で、壁越しに「BELIEVE」という文字を読み取れた。
Source and Image Credits: A. Pallaprolu, B. Korany, and Y. Mostofi, “Analysis of Keller Cones for RF Imaging,” Proceedings of the IEEE National Conference on Radar(RadarConf), June 21, 2023.
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