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AI社会はクレーム対応社会? 東浩紀と山田胡瓜が語る、AIが見せるユートピアとディストピア(4/4 ページ)

» 2023年10月04日 10時00分 公開
[井上輝一ITmedia]
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 これに対して「水温は規定通りなので冷たくありません」とか言っても仕方ない。そもそも「プールの水温が冷たい」っていうのは口実でしかなくて、何か別の不満を持ってるのかもしれない。そういうときは何とかごまかして、とにかくそのお客さんを満足させることが大事ですよね、クレーム対応って。

 今社会ってそうなってきてると思うんですよ。市民もクレーマーになってるし政治も全部クレーム対応になってる。それが良いか悪いかどうかはともかくそういう社会になってて、そういうところを考えるとAIには可能性がある。AIってクレーム対応にすごい強いわけですよね。粘り強くて何言ってもキレない。

 だからChatGPTがカスタマーサービスですごい使えるってみんなが言ってることだけど、あれは本質だと思うんですよ。

 これからの社会って、客の側がすごくクレーム入れても「まあまあまあまあ」とかなだめる対応をされるだけで、結局プールの温度は変わらない。「ごもっともでございます〜」みたいにいろいろなだめられて、そこまで言うんだったらしょうがないけどさ、みたいな感じで引き下がるようになっていく。

 でもこれってすごくやばい世界でもありますよね。

 つまりかつては体制側と反体制ってのがあって、反体制が何か言って法律変わったりシステム変わったりするのに、今は反体制は単ににクレーマーとして処理されている。

 体制側は「まあいろいろやつらも大変だろう」と。だからそこそこ話を聞き、そこそこ住民何とか会とかはやる。でも計画は何も変わらないみたいな。実際今そうなってきてると思うんですよね。

 そういう今の社会の方向とAI的な処理ってすごく親和性が高くて、それはそれで幸福度高いのかもしれない。ただ全体がこれでいいのかっていうと僕はそこには少しハテナもあるわけ。僕自身もそういう社会の中で生きてることはすごく自覚してるんだけど。

山田 確かに完璧にそれだけの世界は結構ディストピアだと思うんですけど、ただ一方で、クレーム対応って良いところもあると思ってて、水の温度が冷たいってクレームも「でも冷たいと健康にいいですよ」とかポジティブに捉えさせて納得させるっていうのは一つの解決ではあると思うんですよね。人間ってそういうことをやり続けてるはずなんですよ。

 それってある種の洗脳だけども、コミュニケーションで落としどころをお互い見つけ合うって人間的な行為でもあると思うんですよね。反体制を抑えるためだけにAIの能力が100%使われたらディストピアだけど、双方を取り持ってくれたらどうなんだろうとかは、考えたりもします。

中編に続く

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