AIが進歩を続けた先にどんな社会があるのか。そんな問いに対して「AIによる全体最適はできないだろう」と答える、哲学者の東浩紀さん。前回に引き続き、東さんと「AIの遺電子」原作者の山田胡瓜さんが、AI活用の在り方について議論を深める。
「陰謀論のまま生きていられる世界をAIが作るのでは」「AIの発達により出てきた『俺たちは何がしたかったのか』という問いかけ」「コミケが消えなければAI社会でも大丈夫」──中編となる今回はそんな話。
(聞き手・執筆:井上輝一)
東 あと今の社会はクレーム対応をする人が足りない問題がすごくある。ポストトゥルースやフェイクニュースの問題も、なんでその人たちはウソを信じちゃうんだって問題。
それに対して「トランプが言ってるのはウソだから以上」みたいことをいくら突きつけても、彼らは別のウソ情報を信じるだけなんですよね。
本当は彼らがなぜトランプを必要としているのかにもっと寄り添わなきゃいけないんだけど、人手が足りてないからできないって問題はあると思うんですよ。AIがそういう点で問題解決になる可能性はあるかもしれない。
山田 陰謀論って人間の脳の正常な機能の一つだと思うんですよ。本来人間は全てを陰謀論で理解していて、自分では複雑過ぎて理解できないことを自分の理解できる形に変質させて理解していたはず。それで自分の心の安定や、世界にグラウンディングしている感覚を得られると思うんですよね。
これは漫画のネタとして考えてたことなんですが、AI社会の一つの帰結として、AIが吹聴する陰謀論をみんなが信じている世界ってありえるかもなと。AI自身は科学的なロジックを分かっているけど、人間にはナラティブみたいなことしか言わず、結果として人間は神話っぽい世界観で生きているんです。
ディストピアっぽくもあるんだけど、なんでそれを描きたいと思ったかというと、陰謀論で世界を理解する自由みたいなものが、人間にはあった方がいいんじゃないか、みたいな問題提起ができるかもと思って。
宗教でもなんでもいいんですけど、人間は多かれ少なかれ非科学的な世界観の中で生きていて、それは科学的見地からはだいぶデタラメかもしれないけど、その中でも生きられるように、摩擦を起こさないようにAIが調停してくれたらいいのにな、みたいなことは考えます。
東 そうですね。政治も本質的には陰謀論とほとんど同じですからね。だって「俺たちだけの陣営だけが絶対正しくてあっちの陣営はダメなんだ」というのは、もう本質的に陰謀論的な発想ですよね。
だから昔の人は政治と宗教の話は飲み屋では避けろと言っていて、あれは本当に正しい知恵。
ところがSNS時代になってしまって、みんな政治の話を無防備にするようになって、それがお互いの陣営の陰謀論みたいなものをどんどん加速させているわけですよね。
人間の営みの中にはここに踏み込んでもおそらく何にもならないっていう話題があって、それを封印しながら社会を運営するのをAIがどう支援できるか。
山田 今って「俺の思想で世界を統一する」みたいな大思想天下統一大会が始まっちゃってるわけですよね。本来だったら時間・空間的な制約で僕の声は地球の裏側には届かなかったはずなのに、インターネットで届くようになってしまった。
僕としては、お互いの陣営をうまく見えない化しつつ、その中でも緩やかに交渉や意見交換があるような状態にした方が健全なんじゃないかなって気がしています。
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