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なぜ僕らは画像生成AIよりも人のイラストに惹かれるのか 改めて問われる「自分は何がしたかったのか」問題「AIの遺電子」と探る未来(2/3 ページ)

» 2023年10月04日 10時00分 公開
[井上輝一ITmedia]

  AIと言わずとも、SNS的なものは、今後サービスの進化として政治の話題を表示しないというオプションがつくようになるかもしれませんね。この10年、SNSを政治に使いたい勢っていうのがすごくいっぱい生まれましたけど、おそらくSNSは政治に向かないんですよ。

 SNSは本来、もっとだらだらとした話や下らない話でなんとなく繋がりを確認したいっていうだけのもの。それなのに、それを政治に使うといいぞっていう人たちがキャンペーンをし続けた結果、政治の価値自体を貶めるツールになってしまっている。そこをうまい具合にブロックできれば平和なSNSが戻ってくる可能性もあるかもしれない。

山田 今実際起きてますよね。Threadsもタイムラインがアルゴリズムで、フォローしていない芸能人の投稿が流れてきますし。AIって言っていいか分からないですけど、テクノロジーが人間のコミュニケーションを勝手に選択し始めているように思います。

  エゴサーチも禁止すればいいと思うんですけどね(笑)。

山田 生のデータをそのまま検索結果に出すのもなくなってくるかもですね。

  検索が対話型AIにとって変わられると自動的にそうなるかもしれない。それが本来あるべき姿で、だって普通、自分について何を言われているか教えてって他人に言ったとして、誰も全部は正直に伝えないですよ。そういう意味で、今のSNSはまだすごく未熟な技術なんだと思います。

俺たちは何をしたかったんだろう

  少し立ち返りますが、AIで社会を最適化しようと思ったら人間の良いところも全部消さなきゃいけない。でもそれはさすがにやりたくないから、じゃあそこをどうやって折り合いつけるのかって話だと思うんですよね。

 今まではそういうことが技術的にできるっていうことが分かってなかったから、その問題を考える必要がなかった。でも多分これからはAIができてしまうので、そうすると「俺たちは一体何がやりたかったんだ」という問いかけが出てくる。

 そのときに、例えばイラストAIの話でいえば、人間は「下手でも絵を描きたい」ってなると思う。囲碁や将棋はすでにAIの方が強いじゃないですか。でも競技がなくなったりはしない。俺たちは人間同士の対局が見たいんだという。

 AIの力で今まで見たことのないようなすごい絵や音楽が生まれても、それと同じことで、機械でできたからなんだということで、「60歳、70歳になったあいつが描いている、演奏しているのが見たい」と感じるんだと思います。

 僕たちは実は美しいものを求めてるんじゃない。すごい変な言い方だけど、プロフェッショナルであればプロフェッショナルであるほどAIを過大評価しちゃうところがあると思うんですよ。

 なんでかっていうと彼らは自分たちで作ってるから、自分たちで美しいものを作ってるから、どんどん豪華に・安価にこんなこともできる、あんなこともできるっていうその素晴らしさが分かっちゃう。

 でも漫画家の方を前にしてこんなこと言うのもあれだけど、例えば子供が漫画描きたい、絵を描きたいって言った時に、すごいキレイな絵を描きたいとは思っていないと思うんですよね。

 絵を描く行為が楽しいってことだし、周りの人は「この子が描いたこの絵」だと思うからこそそれが面白いっていう風に見ていく。

 おそらく人間のクリエイションの基本はそういう経験の方にある。絵のクオリティをどんどん追求して、それが面白い、すごいと思うというのはむしろプロになった後の発想なんですよ。

 そうするといつの間にか、AIが絵を描いてくれるんだったら人間が描くのはもはや効率的ではないんじゃないかみたいに思っちゃうけど、それってまさに原初的な感覚を見失った倒錯だと思うんですよね。

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