東 例えば僕は文章を書いたり、ゲンロンカフェに出て喋ったりするわけですが、じゃあ僕の代わりに誰かが出てくれましたと。彼が喋っていい感じだったので、僕は家に座ってるだけで出演料も入ってよかったと。AIで便利になるというのはそういうことだけど、これは僕、何をやってるんだろうってなりますよね。
自分が人と喋るとかが楽しくてこの会社を始めたはずなのに、なんで僕の代わりに彼が出て、自分は配当をもらうだけになっちゃっているのか。
ビジネスベースで話す人って基本的に経営者で、経営者って要は「自分ではやらない人たち」ですよね。クルマを作りたいならクルマを作る人を雇う。そうやって事業を回していく。全て雇った方が効率的だし安い。
それはそれでいいんだけど、そういう経営者的な言説が全てじゃない。それが今すごく世の中で力を持っているけど、彼らはちょっと特殊な人たちだっていうふうにもう少し社会が冷静になるべきだと思う。
人間は何かを「自分でやりたい」と思う。それは実は全体から見れば効率的ではないのかもしれないし、クオリティも低いのかもしれないけど、そういう人たちがこの世界にたくさんいるから社会が成立している。だから「この仕事は非効率的だからお前は別に仕事に移すよ」ってAIに言われても、「いや自分でやりたいから」っていうのがあると思うわけです。特に文化や芸術の領域においては。
そういう人間の頑固な部分を、ビジネスオリエンテッドな人たちは軽視している気がします。
山田 僕、だから最初の目的に回帰するためのきっかけとしてAIが機能するって思ってるんですよ。描くことが楽しくてやってるはずでしょとかって、やっぱりその通りだと思うんですよね。
ただ資本主義経済の中で、もっとお金が欲しいみたいな本来の目的とは違うものが芽生えて、そっちの方がまるで本筋かのようにみんなが動かざるを得ない部分がある。でもAIがそれを取っ払ってくれるなら、人間ってすごく本来の目的に立ち返れるんじゃないかと。
そういう意味では、商業的な今の規模の漫画がなくなってもコミケはなくならないと思ってます。そうなるならAIが世の中を席巻するのも結構ありなのかもしれない。
東 他がいくら変わっても、コミケが消えない限りは大丈夫っていうのはすごく大事なところですよね。だってコミケってなんであんなに暑い中みんなして集まらないといけないんだと。普通に考えてダウンロードサービスとかで配った方がいいじゃないかと思っちゃいますが、そうではないわけですよね。
その価値ってなんなんだということを、ビジネスの人たちは忘れすぎてるんじゃないかな。
(後編に続く)
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