ITmedia NEWS > 科学・テクノロジー >

空気中のミリ波で“血圧”を測り監視する手法 気が付かれず血圧測定 中国の研究者らが開発Innovative Tech

» 2023年10月12日 08時00分 公開
[山下裕毅ITmedia]

Innovative Tech:

このコーナーでは、2014年から先端テクノロジーの研究を論文単位で記事にしているWebメディア「Seamless」(シームレス)を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。

Twitter: @shiropen2

 中国の北京郵電大学に所属する研究者らが発表した論文「airBP: Monitor Your Blood Pressure with Millimeter-Wave in the Air」は、ミリ波(mmWave)を用いた非接触での血圧測定方法を提案した研究報告である。この非接触の方法の利点は、ユーザーが仕事をしているときや、寝ているときでも、気が付かないまま血圧を測定できることだ。

ミリ波センシングを利用した非接触型の血圧モニタリングのイラスト

 ミリ波センシングは、高解像度のセンシング能力のため注目を集めている。ミリ波信号を人体から反射させて解析することで、人の動きや呼吸、心拍数などを非接触で測定できる。しかし非接触での血圧測定は、いまだ難しい課題である。

 現在の血圧測定方法は、伝統的な腕帯を用いたものや最新のウェアラブルデバイスを用いたものなど、皮膚に触れることが必須である。この接触は、不快な経験を引き起こすことがあり、特定のユーザーに害を及ぼすことがある。

 この研究では、非接触で血圧を測定するシステム「airBP」を提案。airBPは、ユーザーの手首にミリ波信号を発射し、手首の動脈から反射した信号を捉える。この信号を解析することで、動脈の脈拍を復元し、血圧に関連する特徴を抽出して血圧を推定する。

手の動脈を検出し、血圧を推定

 実現するには2つの大きな課題が存在した。1つ目は、手首の動脈を正確に捉えることである。手首の動脈は極めて小さく、皮膚の下に位置しているため、正確な測定は難しく、手が動くとその位置の特定が困難に。この解決方法として、手首の動脈の脈拍のリズムを利用し、正確に動脈の位置を特定することを試みた。これにより、手首の動脈の脈拍を確実に捉え、血圧を正確に測定できる。

 2つ目の課題は、手首の脈拍の波形から血圧を推定することだ。この課題の解決策として、脈拍の波形全体から血圧を学習するアプローチを採用した。具体的には、脈拍の中から血圧に関連する特定の部分を探し出すこと、そしてどこに注目すべきかを学習する。その特定部分から、血圧に関する重要な情報のみを捉える方法を試みた。この方法により、脈拍から血圧を推定できる。

実験時のセットアップ
実験時のセットアップ

 実験では、通常の市販の小型レーダー(mmWaveレーダー)を使用し、41人の被験者を対象にその性能を評価した。その結果、収縮期(上)と拡張期(下)の血圧の正確な推定が可能であること、平均誤差やばらつきが非常に少ないことを確認した。

 さらに、最大26cmの距離まで効果的に測定すできることも判明。また、周囲が雑多であっても、明るさに影響されずに正常に動作することを確認した。

Source and Image Credits: Yumeng Liang, Anfu Zhou, Xinzhe Wen, Wei Huang, Pu Shi, Lingyu Pu, Huanhuan Zhang, and Huadong Ma. 2023. AirBP: Monitor Your Blood Pressure with Millimeter-Wave in the Air. ACM Trans. Internet Things Just Accepted(August 2023). https://doi.org/10.1145/3614439



Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.