しかし、続く12月と23年1月はうまくいかなかった。原因は年末年始の長期休暇だ。福田さんは暗黙知を基に独自の係数を調整することで対応したが「見事に予測を外した」(福田さん)といい、廃棄が多く出た一方でシールが枯渇寸前になってしまった。現場では、通常は認められていない工程間でのシールのやりとりによってなんとか解決したが、需要予測の手法は改めざるを得なかった。
この反省から、福田さんはVertex AIの予測結果に係数を掛けて発注数を決める方式を取りやめ。Vertex AIの予測精度をより高めることで、同様のトラブルを防ぐことにした。
実際にはデータウェアハウス「BigQuery」を併用することに。過去の予実をVertex AIに投入して特徴量を抽出したうえでデータの前処理を行い、BigQueryに投入。BigQueryではデータを基に機械学習モデルを作成・実行して需要を予測。その結果のうち、必要な情報だけを再度Vertex AIで再度まとめ直す形を取った。
この手法を取った結果、まだ100万〜150万程度残っていた廃棄額を、4月以降はほぼゼロにすることができたという。しかも、40時間かかっていた所要時間を10分程度にまで縮めることにも成功した。
AIを活用した需要予測により、無駄の削減に成功した江波工場。福田さんたちは成功の背景について。大きく2つの理由があると分析する。一つはGoogleのサポートを得たこと、もう一つは周囲が今回のようなプロジェクトに前向きだったことだ。そもそも江波工場ではコロナによる業績低下を境に、現場発の業務改善の機運が高まっており、失敗も許容する空気感が醸成できていたという。
「スピード感を持って早くトライし、失敗するにしても早く失敗することを実践していた。社内では同様のプロジェクトが14個くらいあったが、成功したものも失敗したものもある」と松村さん。同様の意識が他の社員にもあったことから、周囲も協力的だったといい「廃棄削減が形になるにつれ、ワクワク感も高まっていった」と振り返る。
「シールが枯渇しかけたときに、現場のメンバーが走り回ってくれたのを見て、機械学習だけの力ではなく、現場あっての廃棄削減だったと感じた」(福田さん)。江波工場では、シールの廃棄削減を機に、他の素材や薬品でも同様の取り組みを進める方針だ。すでに塗料の廃棄削減について、プロジェクトが進んでいるという。
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