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鶏肉加工にもAI自動化の波 リサイクル部位の7割を唐揚げ用に──ニチレイの食品ロス削減術

» 2021年10月26日 12時23分 公開
[吉川大貴ITmedia]

 冷凍食品の製造販売を手掛けるニチレイフーズ。今、同社が鶏肉を出荷する上で欠かせない存在になっているものがある。AIだ。

 同社ではこれまで、唐揚げなどの材料となる鶏肉を検査し、血合いを取り除く工程を、工場員の目視と手作業に任せていた。しかし従来の手法では端材が増えやすくフードロスにつながる他、工場員の負担にもなることから、画像認識AIを活用して自動化。食用にできず飼料や肥料にリサイクルしていた鶏肉を7割減らせたという。

photo AI導入前後の比較(ニチレイフーズの公式サイトから引用)

 「血合いは食べても問題がないが、不快感がある人もいるといった理由で除去している。これまでは全部の血合いを目視で確認していたが、本当に数が多く、一番手間や負担が掛かっていた。手作業だと血合いだけをピンポイントで除去できないため、フードロスも問題だった」──これまでの手法について同社の吾郷友亮さん(技術戦略部 装置開発グループマネージャー)はこう振り返る。

 詳細な数値は算出していないものの、検査のスピードアップにも役立っているというニチレイのAI。今では現場から「『(手作業は大変だから)早くシステムを動かして』と工場員にせっつかれる」といった声も聞くほど、業務に欠かせない存在になっているという。自動化された検査の裏側を吾郷さんに聞いた。

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AI×独自開発の機器を併用、血合いだけをピンポイント除去

 ニチレイが開発したシステムでは、これまで目視と手作業で行っていた一連の工程を、(1)鶏肉を目視で確認する、(2)血合いの位置や有無を判断する、(3)実際に手で取り除く──という作業に分解。それぞれを自動化することで、フードロスの削減やスピードアップにつなげているという。

photo 鶏肉の血合い(ニチレイフーズの公式サイトから引用)

 まず1つ目の工程は、ベルトコンベヤーに流れてくる鶏肉を、目視ではなくカメラで撮影する手法に変更した。AIが分析しやすい画像を用意するため、カメラに偏光フィルターを取り付け、鶏肉のてかりを抑えて撮影できるようにした他、誤検知の原因となる影を減らす処理も撮影後に加えているという。

 2つ目の工程では、生肉の画像を学習させた(データ数は非公開)AIを活用。カメラで撮影した画像と、ベルトコンベヤーがどれだけ動いたか計測できる「エンコーダー」という機器で取得した座標情報を基に、AIで血合いの有無や位置を検出する仕組みを採用した。

 最後の工程では、AIで同定した血合いをニチレイが独自に開発した機器で除去する。機器の具体的な仕組みは非公開だが、血合いだけをピンポイントで除去できるため、手作業と比べてフードロスを抑えられるという。

 いずれも詳細な時期は非公開だが、新システムは一部の工場で試験運用し、唐揚げなどの生産を受け持つ国内の工場に順次導入していく方針という。

「肉は誤検知が起きやすい」AI採用の背景

photo 吾郷友亮さん(技術戦略部 装置開発グループマネージャー)

 AIを活用し、フードロスの削減と検査のスピードアップを同時に実現したニチレイ。しかし、同社はAIではなく、鶏肉の色合いの違いなどを基に、ルールベースで血合いを見分ける仕組みを検討していたという。なぜ当初の方針を変え、AIの活用を決めたのか。

 「肉は形状が不安定で影ができやすく、血合いとそれ以外の色の違いもあいまいで、誤検知を起こしやすい。しかし、ディープラーニングなどを使って判断するとそういったあいまいな部分も判別できることが分かり、AIの活用を決めた」

「春巻き」「包装前のチキン」の検査にもAI活用

 ニチレイでは鶏肉の血合いを除去する以外の用途でもAIの活用を進めているという。例えば春巻きを生産する工場には、ベルトコンベヤー上の春巻きをAIで検品するシステムを導入した。問題のある春巻きの数とベルトコンベヤー上の位置を基に、機器の調整不足を割り出す用途にも活用しているという。

 鶏肉の検査におけるAIの活用も加速する方針だ。ニチレイは現在、鶏肉を包装する直前に、骨が残っていないかどうかを最終確認する工程でもAIの導入を検討しており、他社と協力して新たなシステムを開発中という。実用化の時期は明かしていないが、目視に比べて検査の精度が上がることから、リサイクルに回す鶏肉をさらに減らせる見込みとしている。

 「ニチレイは食品メーカーではあるが、社内に技術部門を持つことで、機械メーカーやSIerに頼り切らず、対話しながらやっていくことができたのが強みと感じている。私が主に手掛けているのは(食品の)検査だが、他部署では別分野での活用にも取り組んでいると聞く。こういった取り組みが他社でも広まれば、業界全体の盛り上がりにもつながるのではないか」

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