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SaaS管理が情シスに“刺さる”背景 freeeが買収した「Bundle」の戦い方はSaaS for SaaSの世界(2/3 ページ)

» 2023年12月25日 10時00分 公開
[武内俊介ITmedia]

UUUM時代の苦痛が誕生のきっかけに Bundleの設計思想

 Bundleは、UUUMに事業売却した経験を持つ連続起業家の石橋尚也氏が2021年に創業し、開発したSaaS管理ツールだ。「UUUMでは、業務整理の一環としてSaaSアカウントの管理をスプレッドシートで行っていたが、これが非常に非効率で苦痛だった。新しく会社を立ち上げる際にそのことを思い出し、Bundleを作ることに決めた」と石橋氏。Bundleの利用社数は拡大し、23年に会社ごとBundle事業をfreeeに売却、吸収合併を経て、石橋氏は現在freeeの中でBundleのプロダクトマネジャーを務めている。

 freeeは12年にGoogle出身の佐々木大輔氏が設立したスタートアップである。13年にクラウド会計ソフト「freee(現在の「freee会計」)」をリリースし、その後も会社設立や人事労務などのバックオフィス向けのプロダクトを次々と立ち上げ、19年に東証マザーズ市場(現在の「東証グロース市場」)に上場している。

 近年はスタートアップによるM&Aは珍しくないが、freeeもこれまで電子契約サービスのNINJA SIGN(21年)、税務会計システムのA-SaaS(22年)、受取請求書サービスのsweeep(23年)など様々なプロダクトを買収し、サービスラインアップを拡充してきた。Bundleを買収したことによって、これまで税務・会計・労務領域を中心に事業を展開してきたfreeeが、情シス領域にも進出することになる。

 税務・会計には法人税法、消費税法や会計基準、労務には労働基準法や所得税法といった法律や規定が存在し、かつ、大量のデータを素早く処理する必要があるため、これらの領域のデジタル化はかなり早くから取り組まれていた。一方で情シスは、ITデバイスや社内システムを扱っているが、その管理は表計算ソフトを利用することが大半で、横断的に活用できるような専用ソフトはほとんどなかった。

 「創業後すぐに作ったBundleのα版は、コスト管理や契約管理の機能が中心だったが、約100人の情シス担当者と対話したところ、情シスの範囲外なのでそのニーズはないということが分かった。一方で、社内で利用しているSaaSアカウントの発行や停止の自動化についてはほとんどの担当者が強い関心を示していたため、即座に路線変更を決断した」と石橋氏は話す。

 「日本のSaaS元年」 といわれた18年以降、日本企業のSaaS利用率は徐々に増えてきてはいたが、コロナ禍を経てそのスピードは一気に加速した。社内で利用するSaaSが増え続けるのに対して、人手不足の中では情シスのリソースはほとんど増えず、担当者の負担だけが重くなっていた。SaaSアカウントの発行や停止はきちんとやって当たり前、ミスをすれば大問題になるという業務の典型といえる。Bundleはそこに着目し「SaaSアカウント管理の自動化」による課題解決を掲げている。

オートメーション、ファイル棚卸し……Bundle、3つの特徴

 Bundleの1つ目の特徴が、人事発令起点で各種処理を自動実行できるオートメーション機能である。例えば、人事労務システムで新入社員のアカウントを作成すれば、Bundleを経由して、勤怠やタスク管理、チャットなど社内で利用しているSaaSのアカウントが自動的に作成されるように設定できる。退職時の処理はその逆で、人事労務システムで退職処理をすれば自動的に各SaaSアカウントも無効になる。

 近年、「Workflow Automation」(WFA)と呼ばれる分野のスタートアップが盛り上がっている。ビジネスプロセスの全部または一部を自動化するためのシステムのことだ。日本でも一時期PCの画面上での操作を自動化するRPA(Robotic Process Automation)が流行ったが、処理ではなく操作を代替しているだけなので、画面レイアウトがちょっと変わるだけで動作しなくなるなど、用途がかなり限られており、当初の高い期待値には応えられないことが明らかになってきている。

 一方、WFAは業務プロセスを可視化し、その上での処理を自動化する。SaaS間のAPI連携も広がってきており、AIを活用した自動化などにも期待が寄せられている。

 オートメーション機能は「Bundle上で操作をする必要がない」点に特徴がある。各種アカウントの発行・停止は、採用(人事部門)や契約(法務部門)が起点になることがほとんどであり、情シスはその後処理として対応することが多い。事前にBundleと連携した自動処理の設定をしておけば、人事や法務の処理が完了すれば、即座にアカウントの発行や停止が自動的に行われるため、情シスの業務負荷はほぼゼロだ。

 情シスの業務は「デジタルツールを使ったアナログ作業」と揶揄されるほど、手動作業が多い。Bundleのオートメーション機能がその作業を大幅に減らすことで、情シス担当者は本来やるべきセキュリティ対策や利用システムの最適化などの業務にかける時間を捻出することができる──という狙いだ。

 2つ目の特徴が、ファイル棚卸し機能だ。GoogleドライブやBox、Dropboxなどのオンラインファイルストレージサービスを企業内のファイルサーバとして利用する企業も増えてきた中で、問題になっているのが外部への共有管理である。Bundleでは、どのフォルダ・ファイルが外部へ共有されているのかということを確認することができ、必要があればBundle上の操作で一括でそれらの共有を停止することもできる。

 パスワード付きZIPファイルをメールに添付して送る手法、いわゆる「PPAP」がセキュリティ上のほとんど意味がないどころか、多くのリスクを抱えていることが周知されてきた。結果、オンラインストレージ上にあるファイルを共有する機会は増えてきている。簡単な操作で共有用のURLを発行したり、共同編集者に招待したりすることができるため、従業員もあまり深く考えずに外部共有処理を実行してしまう。

 そして、従業員の退職後や外部とのプロジェクトの終了後も、それらのフォルダ・ファイルが外部に共有されたまま放置されているケースは多い。利用プランによっては情シスが一括で確認・操作できなかったり、情シスがそこまで手が回らなかったりと理由は様々だが、これもかなり手間のかかる対応である。

 Bundleを利用すれば、アカウント別の外部共有状況を見ることができるようになり、一括でそれらの共有を停止することもできる。確実に共有状況の可視化や一括処理ができる機能は、業務範囲が広い情シスにとってはありがたいだろう。

 3つ目の特徴は、「統合マスター」機能である。Bundleは連携している各種SaaSから情報を抽出し、統合マスターデータとして再構築することができる。HR系のマスターは正社員のみを管理するものだが、メールやチャットサービスを業務委託にも提供している場合などは、情シスがHRのマスターを踏まえた上で、管理台帳を作成する必要がある。HRのものや情シスの管理台帳を統合した従業員マスターを構築する必要があり、主に表計算ソフト上で作成するしかなかった。

 一方Bundleでは、190個のSaaSから従業員情報をインポートして、掛け合わせて管理できるようになっており、正社員・アルバイト・業務委託・請負契約などの形態を問わずに集約できる仕組みを実現している。

 Bundleが統合マスターとして機能すれば、社内のあらゆるSaaSアカウントの状況はBundleを見れば分かるし、入退社時の自動処理も確実に実行される。Bundleに情報を集約してもらうことで、手動対応が多かった情シスの業務を効率化する状態を目指しているわけだ。

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