一方、AIの開発企業に対するコンプライアンスコストの試算も進んでいる。AIと社会の関係に関する研究・分析を行っている非営利団体米The Future Societyは、23年12月に「EU AI法のコンプライアンスコスト分析」というレポートを発表している。このレポートが対象としているのは、GPT-4のような基盤モデル(大量のデータを事前学習したAIモデル)を開発する企業が負担することになるコンプライアンスコストだ。
近年の生成AIの流行を受け、AI法においても21年の法案発表後、それを規制するための修正が加えられている。その一つが第28条bで、そこでは基盤モデル開発者に対し厳格な義務を定めている。例えば独立した専門家が関与する形でのモデル評価や、環境への影響を測定する機能の追加、品質管理システムの整備といった対応を求めている。
The Future Societyが行ったのは、この第28条bを基盤モデル開発者が守った場合に追加で発生するコストが、基盤モデル自体の開発コストの何割程度になるかという計算だ。基盤モデルの開発には、膨大な学習データと、それを処理するためのコンピューティングパワーが必要になる。
大型で強力なモデルになればなるほど、そうした開発コストも増加する。そこでレポートでは、基盤モデルの開発に必要となる計算能力を段階分けして、それぞれの段階と比較する形でガバナンスコストの程度を示している。
結論から言うと「発生するガバナンスコストは無視できるほど小さい」というのがThe Future Societyの主張だ。例えばGPT-4程度の基盤モデルの場合、その開発コストに対するガバナンスコストの割合は0.22%にすぎないという。それより大規模あるいは小規模なモデルを含めて考えてみても、総開発費に対するガバナンスコストの割合は、0.07〜1.34%の範囲内に収まるとしている。
この試算が正しければ、確かにガバナンスの整備にかかる費用は誤差の範囲内だといえるかもしれない。The Future Societyはこの結果を受けて「AI法がAI開発企業に対して課そうとしているガバナンスは決して法外なものではなく、イノベーションが妨げられることはない」としている。また一部のモデルについては、より厳しい規制を課すことも推奨している。
ただこの試算に対しても「もともと巨額である基盤コスト開発費との比較で見せることで、ガバナンスコストを相対的に小さく見せているのではないか」という指摘がある。実際に同レポートでは、GPT-4程度の基盤モデルを開発するのに、4億5700万ユーロ(約740億円)かかると試算している。
これだけの開発費となると、0.22%といっても日本円で1.6億円程度。さらに厳しい規制がかけられるとすれば、モデル開発費に加えて日本円で数億円の費用を、規制対応にかけなければならないということになる。
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