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溶けるとゲームオーバーの“氷のコントローラー” 敵に当たると加熱 東大が開発Innovative Tech

» 2024年03月06日 08時00分 公開
[山下裕毅ITmedia]

Innovative Tech:

このコーナーでは、2014年から先端テクノロジーの研究を論文単位で記事にしているWebメディア「Seamless」(シームレス)を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。

Twitter: @shiropen2

 東京大学苗村研究室に所属する研究者らが発表した論文「℃0Button:氷の物性を活用したゲームコントローラ」は、氷に直接触れて操作するゲームコントローラーを提案した研究報告である。氷をタッチするとジャンプ、ミスをすると温度上昇で氷の融解を促進、溶けるとゲームオーバーなど、氷特有の性質を生かしたデザインを取り入れたユニークなゲーム体験を実現している。

氷のコントローラーを駆使して横スクロールアクションゲームをプレイしている様子

 このゲームコントローラーの設計においては、「溶ける」「滑る」「冷たい」の3つの特性がキーとなり、新しいゲームプレイを提供する。氷が溶ける性質は、時間の経過を物理的に感じさせ、緊張感を高める。また氷の滑りやすさは、プレイヤーがコントローラーに対してより注意深くなるよう促し、冷たさは操作の積極性に影響を与える可能性がある。

 入力インタフェースには「Makey Makey」というツールキットを使用。氷を載せるための容器には導電性を持つ金属が用いられ、両者はワニ口クリップを介して接続する。このシステムを利用することで、氷の導電性を生かし、プレイヤーが氷に触れた際を検知することが可能となり、氷をコントローラーのボタンとして有効に活用できる。

 融解検知システムでは、サーモグラフィカメラを利用して氷の温度変化を観測し、氷の融解を検知する。ヒーターは、プレイヤーがゲームプレイ中にミスを犯すと、氷の融解を促進させるために作動する。この機能は、氷を載せた容器の下に設置しているヒーターを利用し、プレイヤーのミスに応じて設定温度を上昇させる。

 ヒーターには温度センサーを接続しており、ヒーターの温度を取得し、フィードバック制御によって設定温度を保持している。

Makey Makeyとヒーター(黒いシート)、温度センサー(右下のテープで貼っている部品)、氷を入れた導電性の容器を接続したセットアップ
サーモグラフィカメラで氷を観測している様子

 研究チームは、℃0Buttonを使用してプレイできる横スクロールアクションゲーム「℃0Boy」を開発した。このゲームでは、自律的に走り続ける青い人型キャラクターを操作し、ジャンプさせることで溶岩や赤いスライムといった障害物を避けながら、地下洞窟をできるだけ深く進んでいくことが目的。プレイヤーが操作できるアクションは氷をタッチした際のジャンプのみで、移動は自動で行われる。

横スクロールアクションゲーム「℃0Boy」
プレイ中の様子

 プレイヤーキャラクターが敵や溶岩などの障害物に触れると、ヒーターの温度が上昇して入力インタフェースである氷を熱し、その融解を促進させることでペナルティーを与える。氷が完全に溶けるとゲームは終了し、プレイヤーは指先でペナルティーや残り時間を体感しながら、緊張感を持ってゲームを進めなければならない。

 今後は、サーモグラフィカメラを用いて氷の位置を取得することで、ボタンのようなデジタル入力に加えてスティックのようなアナログ入力にも対応したいと考えている。

Source and Image Credits: 田中 祐玖, 畑田 裕二, Hautasaari Ari, 苗村 健. ℃0Button:氷の物性を活用したゲームコントローラ. 情報処理学会インタラクション2024



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