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「はかなく美しい……」 シャボン膜を“凍結”させたスクリーン 北陸先端大の研究者らが開発Innovative Tech

» 2024年01月12日 08時00分 公開
[山下裕毅ITmedia]

Innovative Tech:

このコーナーでは、2014年から先端テクノロジーの研究を論文単位で記事にしているWebメディア「Seamless」(シームレス)を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。

Twitter: @shiropen2

 北陸先端科学技術大学院大学の佐藤俊樹研究室に所属する研究者らが発表した論文「シャボン膜凍結式全周囲スクリーンの提案」は、シャボン膜を凍結させたスクリーンを提案した研究報告である。この研究では、半球形状に凍結したシャボン膜スクリーンに下方からプロジェクターを用いて画像を投影する装置のプロトタイプを制作し、その検証を行っている。

冷却して半球状に膨らませたシャボン膜

 システムは「シャボン膜生成機構」「シャボン膜冷却機構」「全周囲投影システム」の3つのユニットで構成。シャボン膜生成機構では、シャボン液に浸したひもを銅パイプで作った円形の基部に擦りつけて、初期状態の平面的なシャボン膜を生成する。使用したシャボン液は、水80%、ポリビニルアルコール(PVA)10%、市販の食器用洗剤10%で調合した。

 シャボン膜冷却機構では、生成したシャボン膜を凍らせながら半球形状に膨らませる。市販の冷凍庫を改造した冷風送風機から断熱パイプを通じてマイナス10度の冷却空気をシャボン膜内部へ少量送り込む。この冷却空気の量に応じて、シャボン膜は平面から半球形状まで変化できる。

システムの概要
シャボン膜基部を上から見た画像
シャボン膜の凍結前後の様子

 全周囲映像投影システムは、約180度の画角を持つ広角レンズと小型プロジェクターで構成。広角レンズと小型プロジェクターは、凍結させたシャボン膜の下に配置しており、これにより凍結状態のシャボン膜スクリーンの内側から全周囲に映像を投影できる。

 凍結によるシャボン膜の不透明度の変化の実験では、凍結前後のシャボン膜に「Bubble」という文字を投影し、凍結したシャボン膜の方が凍結前のシャボン膜よりも文字の視認性が向上していることを確認した。これは凍結によってシャボン膜の透過率が低下し、スクリーンとしての機能が向上したことを示している。

(a)凍結前のシャボン膜に文字画像を投影している様子、(b)凍結後のシャボン膜に文字画像を投影した結果

 研究では、シャボン膜の凍結過程で観測できる「スノーグローブ現象」にも着目している。この現象は、凍結過程でシャボン膜上に生成される氷のかけら(氷片)が膜上を対流する美しい自然現象である。実験では、この装置によってスノーグローブ現象が発生することを観測している。

 このスノーグローブ現象を映像投影技術と組み合わせることで、新たな表現の可能性を探求している。例えば、スノーグローブ現象の氷片をカメラで追跡し、リアルタイムに色や映像、文字などを氷片に提示する手法が考えられる。

スノーグローブ現象の氷片

 将来的には、冷却・断熱性能の向上により、シャボン膜スクリーンを瞬時に凍結できようになり、インスタントスクリーンとしての活用が考えられる。また、シャボン膜スクリーンは手で触れて破壊することが容易で、一部を溶かしても全体が割れることはないため、穴を開けて映像を選択的に映し出すようなインタラクションも可能であるという。

Source and Image Credits: 橋本 侑樹, 西村 晶太郎, 寺澤 真一郎, 大塚 眞柊, 佐藤 俊樹. シャボン膜凍結式全周囲スクリーンの提案. WISS 2023: 第31回インタラクティブシステムとソフトウェアに関するワークショップ https://www.wiss.org/WISS2023/



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