「さようなら、そしてありがとう」──横浜・山下ふ頭の“動く実物大ガンダム”が3月31日、フィナーレを迎えた。イベントの模様はYouTubeの「ガンダムチャンネル」で生配信され、6万4000人以上が見届けた。
イベントでは、GGC(ガンダムグローバルチャレンジ)をけん引した3人のディレクターが登壇。ゲストの落合陽一さん(メディアアーティスト)を交え、動くガンダムの開発や運用の苦労を語った。
落合さんが最初に指摘したのは、動くガンダムの保守運用について。「この海風が強く、関節が壊れそうな場所でようやったなと」。当初、動く実物大ガンダムの公開は2020年10月から約1年間の予定だったが、実際にはコロナ禍の影響によりメンテナンス休業を挟みつつ3年3カ月にも及んだ。
テクニカルディレクターの石井啓範さんは「(ガンダムの)中身は産業用機械で固めていて、がんばって動いてくれた。1年動かす物を作るときは3年(使える耐久性を)みるので、ちょうど良かったのかもしれない」と話していた。動くガンダムは各関節にモーター、より大きなパワーが必要になる腰や大腿部には電動油圧シリンダーを使っており、重量は約25t。なお、石井さんによると、故障した時のためにギアなどの重要部品は予備を用意していたが、実際は「ほとんど使わなかった」という。
対談では、開発時のエピソードも飛び出した。動くガンダムが完成間近だった20年9月、GGCは建物の「上棟式」に倣ってガンダムの「上頭式」を行った。ガンダムの体に頭をのせ、全高18mの全容が初めて明らかになる重要なイベントだったが、稼働テストに追われていた石井さんはそれどころではなかったという。
「動くガンダムは、脳みそ(制御システム)が別にあるので、頭の中は空っぽです。メカのエンジニアからすると、脚じゃなくて頭が飾り。(上頭式は)個人的にはじゃまだった」とぶっちゃける。“脚=飾り”は、作中でシャアがジオングのエンジニア(整備兵)に脚がないことを指摘した時、「あんなの飾りです。偉い人にはそれが分からんのですよ」といわれた有名なシーンが元ネタだ。
ただし、上頭式が始まり、大型クレーンがガンダムに頭を載せると、石井さんの気持ちにも変化があった。「頭を載せた瞬間、“ガンダム”になったんです。機械から人型になり、存在感が大きく変わった」という。
一方、3年をかけて徐々に変わってきたものもあった。それはガンダムの動き(モーション)。一度作ったロボット(ガンダム)のハードウェアに手を入れるのは難しいが、プログラムと調整次第でその動きは大きく変わる。
クリエイティブディレクターの川原毅さんによると「吉崎さんのプログラムによって、ガンダムの演技力がどんどん増していった。指先なんか、最後は日本舞踊も踊れるんじゃないかと思うくらい(滑らかになった)」という。
システムディレクターの吉崎航さんは、「あれは石井さんの顔色も見ながら(の作業)なんですよ。メカ的に無理をさせないことを考えると、ちゃんとログをとり、性能上は大丈夫だと確認しながら(進めなければならない)。最後に石井さんに『これ、0.5って言ったけど、0.7にしたからね』と“ぼそっ”と言ったり……」。性能向上の秘訣は、確認と事後承諾だった。
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