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「5Gでライブ中継」が現実に? スマホみたいな5Gトランスミッターで実現する映像の未来小寺信良の「プロフェッショナル×DX」(2/3 ページ)

» 2024年05月22日 20時00分 公開
[小寺信良ITmedia]

キーになるのは「5Gスライシング」

 4月頭にSONY Europe主催で5Gソリューションに関するウェビナーが開催された。ここではソニーとドイツテレコムの長年のパートナーシップによる、5G中継の取り組みが紹介され、上記のような課題の解決方法が示された。

 ポイントは、5G回線のスライシング技術である。これは物理ネットワークを仮想的に分割することで、ライブストリーミング専用領域を確保するというもので、2019年にはソニーと協働で初期のスライシング技術を用いて、ベルリンマラソンの模様をテレビ中継することに成功するなど、実験と実績を積み上げてきた。

 こうしたドイツテレコムのライブ中継向スライシング技術は、Linux Foundationのオープンソースプロジェクト「CAMARA Project」として、API化されている。CAMARA APIは、同一通信会社内のネットワークにとどまらず、他の事業者をまたいだり、国をまたいだりしても回線のクオリティーが維持されることを目的として開発が進められている。

 このあたりは他国と陸続きであるヨーロッパならではの発想とニーズがある。これは1つの通信会社がこのAPIをサポートしているだけでは機能せず、多くの通信会社が対応する必要がある。そのためのオープンソースプロジェクトでもある。

 さらにこうしたデータ通信は、APIと5G回線があるだけではどうにもならない。商業コンテンツ、例えばスポーツ中継番組として提供するには複数のカメラが必要であり、スタジオや現地レポーターとのかけあい、実況中継・解説といった音声、スコアを表示するCGなどをクラウド上で組み合わせる必要がある。これらは映像を低遅延・高圧縮するハードウェアエンコーダー、近年ソニー傘下となったNevionの管理技術であるVideoIPass、クラウドスイッチャー「M2Live」など、複数の技術の組み合わせで初めて実現できる。

 5Gによるライブストリームは、画質に重点を置くか、それとも低遅延に重点を置くかを、その都度選択できるようにしなければならない。独占中継の場合は、リアルタイムから何秒遅れてもあまり問題にならないが、例えばテレビとネットが同時中継する場合、ネットの方が10〜30秒遅いということになれば、有料放送の場合は大きな問題となり得る。

 現在ドイツテレコムでは、こうした5Gスライシングソリューションを「ライブビデオプロダクション」として商品化している。ユーザーはオンデマンドで、いつどこでどれぐらいの帯域幅という形で予約することができる。

5Gとクラウドで編集作業はどう変わる?

 一般に試合終了後のロッカールームインタビューなどは、ライブ放送時間枠内で実施できるという保証がないため、その後のスポーツニュース用の編集コンテンツとなる。リアルタイムのライブ中継でない場合でも、5G回線を使って映像データをアップロードすることにはメリットがある。

 PDT-FP1をセットしてカメラ収録を行うと、映像はカメラ内のメモリカード、PDT-FP1内のストレージに同時に記録される。撮影後のアップロードはPDT-FP1単体で行えばいいので、アップロード完了までカメラが撤収できないような、無駄な時間を省くことができる。

PDT-FP1をカメラに取り付けた場合の運用例(CP+での展示)

 ソニーが運営するCiメディアクラウドと組み合わせた場合は、Ci側からPDT-FP1に対してメタデータを送信できる。バタバタしている現場で、その番組のプロダクション名、カメラマンの名前、プロデューサーの名前、撮影地などのデータを入力するのはそもそも無理がある。逆にクラウド側から、これから送信されるであろうファイルにメタデータを送りつけることができるというわけだ。もちろん現場からも、メタデータを追加できる。

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