日本が終焉を迎える一方、米国のキャンプ熱は冷めていない。米国でキャンプと言えば、キャンピングカーが主力で、ファミリーでバケーションを楽しむための車というのが定着している。もっともそれは、一定以上の富裕層に限られる。
そこに上乗せする格好で、18年ごろから現役をリタイアした世代が加わってきた。家屋を売却し、老夫婦2人でキャンピングカーに乗り込み、カナダやメキシコをゆっくり旅行しながら暮らすのが、理想的なリタイア生活と言われた。
テント泊がそれほど人気がないのは、大陸にはまだ危険な野生動物が生息しているからだろうと思われる。筆者もラスベガスで大型キャンプギアショップへ赴くこともあるが、大抵は銃売り場が併設されている。キャンプと銃が切り離せないことを考えると、テントでは外の状況も分からず、防御としても安全性が低いのは自明だ。
また米国は休暇を長く取れるので、その間中ずっとキャンプに出ているという人も多い。そうなると、キャンプというよりもはや「旅」である。休暇でありながら、「Starlink」などを使ってネット回線を確保し、ワーケーションする人もいる。完全に休暇でなければ、もっと長く旅が続けられるというわけだ。
日本でもコロナ禍の真っ最中は、ワーケーションが推奨された時期がある。だが多くは、地方の旅館やリゾートホテルで仕事するといったスタイルに限られ、休暇で出掛けても結局は場所に縛られる。もともと車での長距離移動が前提ではないからだろう。その点では、ワーケーションは日本のキャンプブームにはハマらなかったピースの1つといえる。
筆者のメールマガジンで、編集プロダクションを営むマイカ代表取締役の井上 真花さんに話を伺った事がある。マイカでは、コロナ禍を契機にそれまで契約していたオフィスを解約し、改装したハイエースをオフィスとして、全国を旅しながら仕事をするという、「バンワーク」を実践されている。こうした働き方が、米国型ワーケーションのイメージに一番近いのではないかと思われるが、日本では誰でも知っているようなメジャーな方法にはなっていない。
こうしたイメージのズレは、ポータブルバッテリーの広告においても顕著に現われる。米国をメインの市場に据えているバッテリーメーカーは、アウトドアでポータブルバッテリーを使うというイメージ戦略を取るが、米国ではキャンピングカーやオートキャンプが主流なので、それは分かる。
一方日本のキャンプブームはテント泊がメインであり、薪を拾って火を起こすことで癒やしを得るのが目的の中、わざわざ重たいポータブルバッテリーをテントまで運んでコーヒーを沸かすといった行為に、必然性がない。マイカのようなバンワークではポータブルバッテリーは必須だが、そもそもそういうことを実践している人が少ない。
つまりキャンプブームがあっても、ポータブルバッテリーの市場開拓には大してつながらなかったのではないか。ポータブルバッテリーもまた、日本のキャンプブームにハマらなかったピースの1つだろう。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
Special
PR