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“特許権侵害”って一体何?──任天堂とポケモン社の「パルワールド」訴訟 著作権侵害との違い、弁護士が解説(2/2 ページ)

» 2024年09月27日 08時00分 公開
[前野孝太朗ITmedia]
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 最近では、野球ゲーム「実況パワフルプロ野球2013」などで導入されたサクセスモードのデッキシステムの特許や、「スーパーマリオ64DS」で使用されたバーチャルパッドに関する特許も話題になりました。

「スーパーマリオ64DS」のバーチャルパッド(公式Webサイトから引用

 特許権侵害がどのような場合に成立するかといいますと、例えば「●●のゲームプログラム」という特許発明があったとします(実際は●●の部分が非常に長いのですが)。この特許発明の要件を全て満たした物を生産、使用、譲渡などする行為は、特許権侵害となります。

 特許権侵害が生じた場合も、該当部分を含むゲームの販売などの差止めや、損害賠償請求などが可能です。

特許権侵害と著作権侵害の違いは?

 このように、特許権侵害の場合も著作権侵害の場合も、販売などの差止めや損害賠償請求が可能である点は変わりません。

 厳密には違いは多々ありますが、1点、ゲームに関して大きな違いを申し上げますと、特許権侵害と著作権侵害とでは、特許権侵害の方が、侵害側の対応が難しくなりやすい傾向があります。

 例えば、ゲーム内の一部のシステムについて、特許権侵害の警告を受けた場合を考えてみましょう。通常、権利侵害の主張を受けた際には、非侵害の主張を行いつつ、主張が難しい場合には、侵害部分の修正対応を行い、侵害状態を解消します。

 しかし、特許発明の内容次第ではありますが、ゲームの根幹にかかわるシステムが特許権を侵害しているのであれば、修正は容易ではありません。場合によってはゲームの大部分の開発をやり直さざるを得ないかもしれません。また、特許発明の解釈が必要ですので、どのように修正すればよいかについても、特許の専門家に確認する必要があります。

 さらに、修正ができなければ、差止めの請求が認められ、ゲームの販売停止という最悪の事態が生じることも考えられます。

 これに対して、ゲームに登場するキャラクターのイラストについて、著作権侵害の警告を受けた場合はどうでしょうか。この場合、イラストのうち侵害が懸念される部分を修正する方法や、イラストを完全に差し替えてしまう方法により、侵害状態は解消可能です。

 侵害状態が解消できれば、少なくとも差止めの請求は受けないことになりますので、販売停止という最悪の事態は免れることができます(過去の侵害分についての損害賠償の義務は生じます)。

 こちらも大変な作業ではありますが、著作権に関しては、修正対象・方法が特定しやすく、また、ゲームの根幹を修正する必要はない場合が多いと思われます。そのため、ゲームに関しては、一般論としては特許権侵害の方が、より侵害側の対応が難しくなりやすいとはいえるでしょう。

ゲームに関する特許権侵害が争われた事例

 これまで、ゲームの特許は、それほど行使されている印象はありませんでした。

 1999年にコナミホールディングス(当時コナミ)が特許第2922509号の特許権(いわゆるbeatmania特許)に基づいて、他社製のゲームセンター用ゲーム機の差止請求を行い、話題となったものの(後に和解)、公に権利行使がされる場面は、比較的控えめだったように思われます。

 しかし近年、ゲームの特許に関する紛争は増加傾向にあります。著名な例ですと、14年にカプコンがコーエーテクモゲームスの「戦国無双」シリーズなどに関して、特許権侵害を理由に損害賠償請求を行った例があります(知財高裁令和1年9月11日判決)。

判決はコーエーテクモゲームスの一部勝訴に(公式Webサイトから引用

 こちらは、簡単にいいますと、前作ゲームのディスクを読み込ませることで、キャラクターの増加などの追加要素が受けられるという特許について、特許権侵害などが問題となった事件です。

 また、17年に任天堂がコロプラのスマートフォンゲーム「白猫プロジェクト」に関して特許権侵害を理由に損害賠償請求などを行った例も有名でしょう(東京地方裁判所 平成29年(ワ)第43185号)。21年にライセンスを含めた和解により決着しましたが、和解金額が33億円であったことも話題となりました。

33億円の支払いで和解に(公式Webサイトから引用

 直近では、23年にコナミデジタルエンタテインメントが、Cygamesのスマートフォンゲーム「ウマ娘 プリティーダービー」に関して特許権侵害を理由に損害賠償請求などを行った例もあります。こちらは現在係争中です。

訴訟に関するCygamesの発表

 これらの事例に、今回の任天堂・ポケモン社とポケットペアとの間の裁判が加わった、ということになります。

どうなる、係争の行方

 今回の任天堂・ポケモン社とポケットペアとの間の裁判は、特許権侵害を主張するものです。

 従いまして、パルワールドの発売当初に話題となった、パル(キャラクター)とポケモンの類似性などは、裁判と直接関係しません。裁判では、任天堂とポケモン社が保有する特許(ゲームシステムなど)をパルワールドが侵害しているとの主張がなされ、ポケットペアとしては、侵害がないと主張することになります。

 仮に、非侵害の主張が難しいとなれば、状況に応じて、侵害の可能性があるゲームシステムなどの変更も検討することになりますが、特許の内容次第では、大幅な変更が必要になる可能性もあるでしょう。今後の続報も注目されます。

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