――なるほど、その前提があったからマケインでもここまでの盛り上がりが可能となった、とも言えそうですね。一方で、これは豊橋に限らず、いま日本の大都市圏外の地域もさまざまな課題を抱えています。推し旅、コンテンツタウン構想で地域の課題解決につながるような可能性はあるのでしょうか?
福井:若い人が街中を歩き回ってくれるような状況を作りたい、また地元の文化・産業にもスポットライトを当てたいという課題意識は豊橋市さんからは出てきていましたね。まさに「推し旅」やそれを受け皿となるコンテンツタウン構想は、その課題解決につながるものだと思います。
――その効果というのは現れてきているのでしょうか?
福井:われわれとしての直接の成功基準は新幹線の利用客数なのですが、コンテンツが展開された地元企業さんに利益がもたらされることがコンテンツタウン構想の観点からは重要だと考えています。モンハンコラボでは20を超える事業者の皆さまに参加頂いたのですが、数字は公表できませんが非常にたくさんのコラボ商品をモンハンファンの方々に購入いただいています。
――地域にゆかりのないコンテンツを展開した「モンハン」と、とてもゆかりのあるマケインが展開されるということになったわけですが、起点は23年3月の「マケイン総選挙」でしたね
福井:自分で言うのはアレですが、あれはファインプレーだったと自負しています(笑)。恐らくアニメ化が検討されていた時期だと思うのですが、まず22年の冬に小学館さんから私に「豊橋を舞台にした作品があるのだけれど何かできませんか」と連絡があったんです。作品のことや、SNSの熱量を調べたうえで「いまからJR東海として作品を応援します」と決断しました。その第一弾が総選挙で、いま振り返るとあの時点ではわれわれは全くもうからないイベントなんですよね。駅ビル(カルミア)で買い物をしたお客さんに投票を呼び掛けて、1位になったヒロイン(八奈見杏菜)の大きな広告をディスプレイでながしたわけですから(笑)。
でも、この先行投資はいずれJR東海にも収益をもたらすことになる、と当時社内でプレゼンしました。実際、このイベントで私自身もコンテンツタウン実現の道筋がつかめたんです。まだモンハンコラボもはじまる前でしたが、地元の方々がこうやって作品を応援してくれるという機運が目に見える形になれば、コンテンツタウンが実現できると。だから、利益がでるものではないけれど、とにかくポスターを作って、カルミア以外の地元のお店やホテルの方々にもそれを貼ってもらうようお願いして回りました。
――このときの投票権は駅ビル「カルミア」での買い物が前提ですから、それ以外のお店には直接はメリットはない、にもかかわらず、ですね
福井:そうなんです。実際、門前払いされてしまったこともありました。でも、加藤さんはじめ市の方々、そして商工会議所の方々も協力してポスター掲示を進めていただけました。なにかすごい作品展開をJR東海が豊橋に持ってこようとしている、という期待や、マケインを街をあげて応援しようという機運の高まりを作ってもらえたのだと思っています
――フィルムコミッションが豊橋をロケ、つまり作品の誘致で盛り上げようと積極的に動いていたことも、その機運の背景にありそうですね
福井:その通りだと思います。総選挙の成功もそれがあってこそですね。
――そこからアニメ化の発表がありました。鉄道会社が鉄道や駅をある意味「越境」して街での版権の展開も集約するというのは前例がほとんどありませんから、また説明・調整が必要になりますね
福井:原作の版権からアニメの版権を活用したものへと、またイチからのモノづくりではありましたが、マケインについては特に豊橋という要素を大事にしよう、という共通意識があったのは大きかったと思います。ただ仰るようにコンテンツタウン構想でのお話ははじめてだったので、「なぜJR東海が? 豊橋市はどういう立ち位置?」という、まさにこの取材のような確認作業は結構時間を掛けておこないましたね。
私が当時いつも言っていたのが「あまり深く考えずにいきましょう」ということですね(笑)。地域とコンテンツが盛り上がるなら、誰がやろうが構わない。アニメ会社でも、豊橋市でも良いし、フィルムコミッションでも良いけれど、ただJR東海を使わない手はないんじゃないですか、と。私たちには「着地でのイベントづくり」のノウハウがある。私たちを巻き込んでもらえれば、実際、総選挙がそうであったように、ファンが大勢いる東名阪という大都市圏で告知を展開し、彼らに豊橋に足を運んでもらって、地元の産業にもメリットを生み出せるものだと思っています。
――現在、まちあるきスタンプを展開しているフィルムコミッションとはどのような関係なのでしょうか?
福井:フィルムコミッションとは以前より交流がありましたが、私としても、企業がずっと主導するのではなく、地元が自ら仕掛けを作って行くことが、コンテンツが長く地域に根づくには欠かせないと考えています。その応援を引き続き行っていきたいですね。
人気作品の舞台となったことがきっかけとなり、JR東海が積極的に関わることで応援の機運が高まっていった豊橋。コンテンツツーリズムにおける三方良しの関係構築に鉄道会社も版権窓口――ひいては地域にどれだけの利益が生まれているかの計測も可能であるはずだ――として、大きな役割を果たしている。ロケ地誘致にとどまらずそれを地域の活性化にもつなげようとする関係者の長きにわたる努力がそこにあり、その努力だけでは解決が難しい課題を企業が自らにもメリットのある形で解決できる可能性があることは、物語コンテンツ(著作物)を活用した地域振興のモデルケースの一つとなり得るはずだ。
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