MIXIが新しいSNS「mixi2」のサービスをスタートさせたのは、2024年12月16日であった。通常は新サービスをはじめる場合、メディアに記事にして欲しいはずなので、メディア向けに公開前に情報解禁日を指定したプレスリリースを送り、サービス開始と共に一斉にメディアにニュースが載るというのが普通だ。だがmixi2に関しては、事前のプレスリリースは出なかったようだ。
App StoreとGoogle Playで専用アプリが公開されただけという静かなスタートで、まずXやFacebookで招待リンクが出回りはじめた。筆者が知ったのは当日の15時頃である。早速ログインしてみると、ネット系ライターやネットの著名人など、SNSに貼り付ける仕事の人達が大挙して押し寄せている最中だった。
各メディアからニュースが出たのは午後5時頃だ。MIXIがリリースした本物なのか、確認していたのだろう。そこから夜にかけて、勤め人の皆さんが仕事終わりでSNSやニュースに気付き、たくさんの人達が殺到してきた。その後1週間で、登録者は120万人を超える事態となった。大手SNSと比べればまだ少ないが、ほぼ日本人しか利用しないプラットフォームでこの数字は、上々のスタートと言っていい。
実は22年11月に本連載で「『Twitterはオワコン、移行先はmixi』という世界線はありうるのか」というコラムを公開した。mixi2の登場でその予言が半分ぐらいは当たった事になる。前回の分析は予測でしかなかったが、実際にmixi2が登場した世界線のもとで、私たちとSNSの関係をもう一度整理してみる必要がありそうだ。
インターネットが一般化する前の90年代前半まで、PCを電話回線でサーバにつなぐ「パソコン通信」がネットコミュニケーションの主力であった。
パソコン通信は、テーマ別に「フォーラム」が分かれており、その下には細分化された「会議室」が設置された。最大の特徴は、各会議室にモデレータが配置されていた事である。モデレータはもめ事があれば仲裁に入るし、場を荒らすのが目的の者に対しては「出禁」の措置が取られた。長文が入力できてしまうので、論を武器としたもめ事も多かったが、訴訟などに発展しなかった(ないわけではない)のは、主にモデレータの調整が機能していたからである。
インターネットの普及が始まった90年代後半に入ると、「ホームページ」ブームが起こる。メインコンテンツは主に「公開日記」であったが、パソコン通信にあったテーマ別の集合体や巡回性がなくなり、コミュニケーションは離散状態にあった。そこに登場したのが、2004年サービスインした「mixi」である。
もう20年前に始まったサービスなので、下手すれば35歳以下の方は使ったことも、名前を聞いたこともないかもしれない。参考までに前回掲載した「ネットコミュニケーションの変遷」の図を再掲しておく。
mixiの功績は、誰でも見られるオープンであることを武器としたインターネットの世界に、もう一度壁を作り直したことである。参加は招待制で、サービスにログインすれば巡回性も確保される。自分とつながっている人は、「マイミク」として可視化されるようになっていた。自分のページへの書き込みは「日記」であり、「足あと」機能により、誰がそれを読んだのかが分かる。この仕組みは、単に読むという行為をコミュニケーションへ昇華した。
これは非常に密な関係性を生む。開始翌年には早くも「mixi疲れ」という社会現象が観測されるようになり、のちの「SNS依存症」へとつながっていった。
またかつてのフォーラムのような「コミュニティ」もあった。開設者がモデレータとなる仕組みだ。パソコン通信のフォーラムは、新しく開設するには運営会社に申請し、それが認められなければならない。類似のフォーラムが存在する場合は、却下された。一方コミュニティは運営会社への申請は不要で、誰でも自由に作る事ができた。このため、同じ趣旨のコミュニティが乱立することになり、覇権争いのような事態になった。
mixiのコミュニティはのちに巨大化することで、もともとの目的であった個人日記の存在をしのぐようになっていく。
mixiの衰退は、Twitterの登場とFacebookが日本で認知されたタイミングとクロスオーバーする。人間関係の密度に疲弊した人達が、もう少しドライな関係性のサービスへ移行することで、リセットしようとしたのだ。その後はオープン型のTwitter、クローズ型のFacebookとして、それぞれが定着した。
TwitterはAPIが公開されたこともあり、多彩な企業や官公庁、ネットサービスが告知メディアとして利用するようになった。また2011年の東日本大震災以降、マスメディアが報じきれない情報の拡散場所として利用された。
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