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テレビが面白くなくなった理由は“コンプラ強化”? 業界とタレントの炎上70年史小寺信良のIT大作戦(2/3 ページ)

» 2025年01月16日 16時00分 公開
[小寺信良ITmedia]

「放送倫理」に揺れた90年代

 90年代は、芸能界の薬物汚染で幕を開けた。90年に俳優の勝新太郎が、ハワイ・ホノルル空港で大麻とコカイン所持で現行犯逮捕されると、マスコミはこぞってハワイに飛んだ。現地で行なわれた記者会見では、パンツの中に隠し持っていた理由を「気づいたら入っていた」、「もうパンツははかないようにする」などと煙に巻いた。「大麻パンツ事件」としておもしろおかしく報じられたが、のちに社会的影響が大きい事件の報道としてはふさわしくないとして非難された。

 その後もクリーンなイメージの歌手やタレントが相次いで覚せい剤取締法違反で逮捕される事件が散発的に発生したことで、これまで事務所に守られていたタレントに対しても、厳格な報道が求められるようになっていった。

 番組制作の姿勢や手法に対して、視聴者の厳しい批判が向けられるようになった事件に、93年のNHK「ムスタンやらせ事件」がある。これはネパール奥地の少数民族を追ったドキュメンタリーだが、撮影されたシーンに多くの「やらせ」があったとして問題になった。もちろん「やらせ」はバラエティ番組では「仕込み」として演出の一つだが、NHKのドキュメンタリー番組で行なわれた「やらせ」は放送倫理としてどうなのか、撮影のために演出するのはドキュメンタリーではないのではないか、といった議論が沸騰した。

 だが95年に、世の中がひっくり返るような大事件が起こった。「地下鉄サリン事件」である。この事件発生前から新興宗教団体「オウム真理教」は、坂本弁護士一家行方不明事件、松本サリン事件などに関係があるのではないかと言われており、事実確認が曖昧なまま、噂レベルであってもマスコミ各社はこぞって報道した。中には事件の渦中にある宗教団体の代表をワイドショーに出演させるといったことも起こり、テレビの放送倫理がより厳しく注視されるきっかけとなった。

 97年には、現在のBPOの前身となる「放送と人権等権利に関する委員会」が発足している。これに69年発足の「放送番組向上協議会」が統合されて、2003年に現在のBPOとなった。

BPO設立の過程(画像:BPO公式サイト)

 90年代は世の中全体が、狂乱の時代であったと言える。

コンプラ強化が始まった00年代

 00年代に入ると、個人情報保護法の施行や放送法改正、BPO設立などが重なり、テレビ放送による青少年への影響や人権侵害に対する社会的関心が高まっていった。

 芸能事務所と放送局の蜜月関係は続いていたが、タレントが起こす薬物使用や暴行事件等によって刑事事件となる例が多くなると、世間の目は芸能人の行動に対して厳しくなっていった。

 そんな中でテレビ局自身の問題として07年に起こった大事件が、「発掘!あるある大事典II」捏造事件である。この番組は数々の現象を実験や検証によってあきらかにしていくという主旨で、特に健康やダイエット企画に人気があった。この番組で放送された食材は、翌日にはスーパーの棚から商品がすべて消えるほどの社会現象を巻き起こした。

 発端となったのは、07年1月放送の「納豆を食べるとダイエット効果がある」という内容である。納豆ダイエットで痩せたとされる人の写真は被験者と無関係、外国人大学教授の字幕テロップのねつ造、実験したと照会された被験者にコレステロール値や中性脂肪値を測定していないなど、効果があるという前提ありきで実験結果をねつ造するという、悪質なものであった。

 関西テレビの制作であるが、実際に制作したのは外部の制作会社とされている。過去の放送回でもねつ造があきらかになり、テレビ局側のチェック体制の杜撰さが指摘された。これにより関西テレビは民放連から除名処分を受けた。

 またこれをきっかけにBPO内でも新たに放送倫理検証委員会が設立され、番組委託制作に関わる契約条件、高視聴率への必要以上のこだわりなどが問題視されるようになっていった。

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