このコーナーでは、2014年から先端テクノロジーの研究を論文単位で記事にしているWebメディア「Seamless」(シームレス)を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。
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オーストラリアのメルボルン大学などに所属する研究者らが発表した論文「The fattening speed: Understanding the impact of internet speed on obesity, and the mediating role of sedentary behaviour」は、インターネット速度向上が肥満に及ぼす影響について調査した研究報告である。
研究チームは、2006〜2019年にかけて「HILDA」(オーストラリアの帯・収入・労働力動態調査)の14年分のデータと、オーストラリア全土のブロードバンドネットワーク(NBN)である高速インターネットの整備・普及率データを分析した。
分析の結果、高速インターネットへのアクセス増加が肥満の増加と明確に関連していることが分かった。具体的には、各地域で高速インターネットにアクセスできる割合が1%上昇すると、住民のBMI(体格指数)が1.573上昇し、肥満になる確率が6.6%増加することを示した。この影響は、個人の収入や結婚の有無、子供の数といった要因よりも大きかった。
研究では、高速インターネットが肥満を引き起こすメカニズムも明らかにした。主な原因は、座りがちな生活習慣の増加と身体活動の減少である。高速インターネットの利用により、人々は長時間スクリーンの前で過ごすようになり、運動する時間が減少する。
オンラインでの買い物や用事の処理が増え、ネット内でのコミュニケーションが増え、外出して体を動かす機会も減少している。また、インターネットの利用は睡眠の質と量に悪影響を与え、これも肥満のリスクを高める要因となっている。
男女別の分析では、インターネット速度の影響は男性の方が大きいことが分かった。また年齢層別では、若年層により強い影響が見られた。これは、若い世代がインターネット機器をより多く使用する傾向があることを反映している。肥満の程度別の分析では、軽度の肥満(BMI 30-35)への影響が最も顕著だった。
Source and Image Credits: Michelle I-Hsuan Lin, Sefa Awaworyi Churchill, Klaus Ackermann, The fattening speed: Understanding the impact of internet speed on obesity, and the mediating role of sedentary behaviour, Economics & Human Biology, Volume 55, 2024, 101439, ISSN 1570-677X, https://doi.org/10.1016/j.ehb.2024.101439.
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