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地震発生! 直後と避難時で違った“必要な情報源” 宮崎在住者が2度の大規模地震で悟ったこと小寺信良のIT大作戦(1/3 ページ)

» 2025年01月24日 15時00分 公開
[小寺信良ITmedia]

 1月13日、筆者の住む宮崎県宮崎市は、震度5弱の大規模な地震に見舞われた。2024年は1月1日に能登半島大地震が発生しており、イヤな予感を感じた人も多かっただろう。ただ今回の地震は、全国レベルの報道では当日夜は熱心に報じられていたが、人的被害がかなり少なかったことから、翌日からの扱いは小さくなったようだ。

 実は24年8月8日にも、今回とおなじ日向灘沖を震源とするマグニチュード7.1、宮崎市で震度5強の地震が発生している。5カ月という比較的短いスパンで、震度5を超える地震に遭遇したことになる。

 前回は午後4時43分とまだ日があるうちだったが、今回は午後9時19分という夜間である。避難するにしても、困難を伴う時間帯だ。しかも今回は、発生後に情報が二転三転し、正確な情報を把握することが困難だった。

 今回の地震の体験から学んだ事を、皆さんに共有しておきたい。

判断に迷う時間帯の地震

 地震発生時の午後9時頃、筆者の家庭では夕食を終えて1時間ほどが経過しているタイミングで、家族はリビングからそれぞれの部屋へ引き上げていた。筆者も自室の仕事部屋で本日最後のメール確認などをしていたところだったが、突然体に感じる揺れを感じた。

 最初は震度2〜3程度の揺れかと思ったのだが、10秒もしないうちに最初の揺れに被さるように大きな揺れが来た。筆者の仕事部屋では、40インチモニターの上に棚を設けて、そこに重要書類などをブックエンドで挟んであるのだが、その書類がバサバサと落ちてきた。24年8月の方が震度は上だったが、書類が落ちてくるようなことはなかった。

 キッチンの方では、食器が棚から落ちる音がした。床には滑り止めのためにクッション材が貼ってあるので、割れることはなかったのは幸いであった。これも24年8月の地震では、棚の上でコップなどが転げることはあったが、棚から落ちるようなことはなかった。前回とは揺れの周波数や方向が違うという事だろう。

 揺れが最大限に達している真っ最中に、スマートフォンの「緊急地震速報」が鳴り出した。もともとこの速報は、地震の初期微動であるP波を捉え、本震のS波が来る前に警報を鳴らすものである。この警告音を嫌う人も多いが、本震が来る前に身構えることができるという点では、評価できる。だがすでに本震が来て焦っている最中に、被せるようにやかましく警報が鳴ったことで、家族間の声がけが阻害された。

 震源が近い場合、P波とS波の間隔が短いため、警報が鳴った頃にはすでにS波が到着しているということなのだろう。仕組み上仕方がないとはいえ、余計にパニックを引き起こすという逆効果になりかねない。この仕組みは、今のうちになんらかの改善が必要ではないだろうか。

 揺れが収まると、次に心配すべきは津波である。筆者宅は海岸線から2km程度しか離れておらず、津波の規模によってはマンションを放棄して避難する必要がある。テレビでは、NHKの対応は相変わらず早かった。早速特別番組に切り替わり、地震直後の気象庁発表では、「マグニチュード6.4、津波の心配なし」と報じられた。

 そんな最中、娘のスマートフォンに電話がかかってきた。心配した同級生の誰かが電話をかけてきたようだが、まさに避難すべきかどうか、情報を収集しての判断が迫られる中、こうした個別の安否確認は非常に迷惑だ。その間本人のスマホが使えないし、電話応対する声が邪魔でテレビのアナウンスが聞き取れない。たった1人を安心させるために、家族全員が犠牲になりかねない。

 外では、防災無線がなにやらアナウンスしているのが聞こえた。窓を開けて確認しようとしたが、エコーがひどく、またアナウンス音も小さいので、何を言っているのか聞き取ることができなかった。

 初期情報を確認した数分後、今度はテレビ報道は「マグニチュード6.9、津波警報発令、津波の高さ1m」に変わった。やっぱり津波は来るらしい。だがこの津波の規模で避難するかは微妙である。さらに続報に注視していると、2分後ぐらいに「すでに津波到達とみられる」との情報が流れた。このとき、時刻は9時40分ごろである。

 津波が来ると情報が変更されて、2〜3分後に到達では、逃げる時間はない。津波が来る、来ないの判断は、マグニチュードによるものらしい。当初発表のM6.4では津波の発生はないという判断だったわけだが、これがM6.9に訂正されたことで津波ありの判断に変わったというわけだ。

 テレビが津波警報発令した直後、防災無線はサイレンに変わった。アナウンスと違い、サイレンはエコーがあっても関係ないので、よく聞こえる。だがそれ以前に、このサイレンは津波警報であるという認知がされているのか、という問題がある。筆者はテレビの情報を確認しながらだったので、ああこれは津波警報のサイレンだなと想像できたが、何もメディア情報が得られない状況だったら、何を表しているのか知りようがない。

 実際に津波が観測されたのは、宮崎港で午後9時48分、津波の高さは20cmであった。津波の高さは、震源地から海岸線までの距離、海底の地形、沿岸部の地形などに大きく左右される。V字型の海岸線では、海水がどんどん中央に集まってくるので津波も高くなる。幸い日向灘の海岸線は長距離で平たんなので、海水が集まってくる場所はあまりないが、それでも海へ向かって拡がっている河口などはいくつかある。

 今回は規模が小さかったので大事には至らなかったが、この公式情報の錯綜は問題だろう。東日本大震災の際、もっとも津波が大きかった福島県相馬市で「9.3m以上」である。また岩手県沿岸部では、津波の高さ自体は岩手県宮古市で「8.5m以上」とされているが、海面から津波が陸地をさかのぼった高さは約40mにも達した。

 そう考えると津波は1mでも、海水が陸地を駆け上がるならば、沿岸部では避難に値する。実際津波警報発令後に、沿岸部の集落では車で高台に避難したようである。

 都会の人からすれば、車で避難などしたら渋滞に巻き込まれて身動きが取れなくなるとして、まったくナンセンスに思えるかもしれない。実際筆者もそう思っていた。だが世帯数の少ない沿岸部集落部では、交通渋滞が起こるほどの人口がない。加えて抜け道も多い。われわれが想像するよりも混乱や渋滞もなく、無事避難できたようだ。

 ただ夜9時過ぎという時間帯では、すでに晩酌してアルコールを摂取している人も多いだろう。それでは車では逃げられない、という状況になる。とはいえ、だ。徒歩での避難では間に合わない、歩行困難な高齢者がいて徒歩避難は不可能な状況において、法を守ってそこで死ぬべきか、という倫理的問題もある。

 現行法での解釈では、飲酒運転は「緊急避難」の要件として認められる可能性は非常に低い。

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