ただここまで紹介してきた高品質、高評価な中国産アニメは日本が得意とするアニメとは実は制作手法が異なる。「トイストーリー」シリーズに象徴されるようなハリウッド系、そしてそれを中国で追い越すに至った中国産劇場アニメは、「フォトリアル」とも形容されるフル3DCGアニメに分類される。見た目は実写のようにリアルに彩色され、キャラクターなどの動きも誇張はありつつも、モーションキャプチャーなどの技術を用いて現実の人間のそれを滑らかになぞることも多い。
対して、現在、日本で制作されるアニメの多くは「セルルック」を指向したものだ。かつて「セル」と呼ばれるセルロイドやアセテートを原料とするシートに描かれていたアニメの表現をデジタルでも再現する手法で、キャラクターには「主線」と呼ばれる輪郭線が存在している。動きは、秒間24フレームのなかで、例えばあえて8コマだけを用いて動きを表現することで緩急をつけ、限られた階調の彩色と相まって独特のリズムが与えられている。
現在ではいずれもコンピュータで制作される点は、フル3DCGアニメ・セルルックアニメは共通しているが、用いられるソフトウェアや制作工程、携わる人材は大きく異なる点には注意が必要だ。
中国で政府からの補助金を受け、国産劇場アニメの人気を生み出しているのは、そのほとんどがフル3DCGアニメに特化した制作スタジオだとEIKYO氏は指摘する。その一方で、セルルックアニメを制作するスタジオの規模は小さく、興行成績も1桁低い傾向にあることから撤退するスタジオも珍しくないという。
冒頭に挙げた「TO BE HERO X」を制作するBeDreamのように、中国でも高品質なセルルックアニメを制作するスタジオが生まれているが、アニメ産業全体を見ると少数派だ。絶好調ともいえるフル3DCGアニメ系スタジオに対して、セルルック系スタジオが政府の補助金・規制のなか今後日本のように多様な作品を生み出し、成長できるかは未知数だというのが実際のところだろう。
逆にいえば、日本のアニメの強みは「セルルック」だということが、中国アニメの現状からも際立ってくる。以前この連載でも触れた(参考記事:ソニーが「アニメ制作ソフト」をイチから開発する理由――関係者に聞く、課題と解決の先にある“可能性”)ように複雑な制作工程から生み出される成果物を高度に統合して毎年数百タイトルという規模で生み出される日本のセルルックアニメは、マンガやラノベといった豊富に生み出され続ける原作市場も相まって、他国が簡単にまねできるものではない。さらには東映アニメーションによる「ガールズバンドクライ」が、原案イラストのテイストを生かしてCGアニメとして表現する「イラストルック」を打ち出したように、日本のCG表現は拡がりも見せている。
政府による検閲が行われる中国で制作される作品は、自ずと表現に制約があり、中国以外の海外市場では継続的な支持を得られていないが、多種多様な作品を生み出す基盤のある日本のセルルックアニメは、配信サービスの拡がりという後押しを受けて日本ブームを海外に巻き起こしている。労働環境や空洞化など指摘されるさまざまな課題の解決を図りながら、これらの強みを伸ばしていくことが、日本政府が掲げる「コンテンツ産業を2033年に20兆円規模へ」という目標達成にもまず必要なことだといえる。
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