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「想星のアクエリオン」のすべて キャラデザ決定の舞台裏から特殊な制作手法まで、糸曽監督にインタビューまつもとあつしの「アニメノミライ」(1/5 ページ)

» 2025年01月09日 11時00分 公開

 2025年、約10年の沈黙を破り、待望のアクエリオンシリーズ最新作が1月9日から放送・配信される。1万2000年の時を超え、現在と過去が交錯する壮大な物語でファンを魅了してきた本シリーズ。最新作「想星のアクエリオン Myth of Emotions」(以下、想星のアクエリオン)では、従来のイメージを覆すデフォルメキャラが採用され、既にSNSで大きな話題を呼んでいる。

1月9日から放映が始まる「想星のアクエリオン Myth of Emotions」

 この大胆な挑戦に込められた意図とは? キャラクターデザイン、革新的な制作手法、そして作品の魅力について、監督を務める糸曽賢志氏に迫る。

「想星のアクエリオン Myth of Emotions」の監督を務める糸曽賢志氏

テーマは「感情」

――シリーズ前作『アクエリオンロゴス』(2015年)から約10年がたちました。前作のテーマ「ロゴス=言葉」から、今回は「Myth of Emotions」、つまり「感情の神話」がテーマとなっています。アクエリオンの生みの親である河森正治さんから託されたことなどあれば教えてください

糸曽:河森さんとは『劇場版マクロスΔ 絶対LIVE!!!!!!』(2021年)で演出として制作に携わったのがきっかけで、その際にプロデューサーから「アクエリオンに興味はありませんか?」とお声がけ頂いたんです。ただ、当時は監督という話ではなく、これから企画を動かす段階だったので、「何らかの形でご一緒しましょう」というお話でした。その際、もし映像を制作するなら、こういうことをやりたいと、当時私が考えていた技術的なアイデアをお伝えしていました。例えば、この後お話しする「実写で撮影するVコンテ(※)」などです。

※ビデオコンテ=キャラクターの配置、カメラアングル、せりふなどの要素を手描きの絵で配置した各カットの設計図を示す絵コンテに対し、ビデオコンテ(Vコンテ)は映像でそれらを確認できる状態まで作り込んだものを指す。近年、アニメではCGでモックアップ<模型>を用いて作成されることが多い

 その後しばらくたって、コロナ禍の最中でしたが、オンラインでの打ち合わせの機会があり「監督をやってみませんか」と打診を頂きました。

 そのタイミングでは既に企画は動いていて、河森さんは「新作では、例えばこんなことをやりたい」というイメージをいくつかお持ちでした。例えば、「感情」をテーマにしたり、舞台を「江の島」にしたりといったアイデアは、既に企画書の中に盛り込まれていました。ただ、河森さんからは「違う人が監督として立って作るなら、いったん自由に作ってもらって構わない。その上で、私のアイデアと合致する部分があれば、ぜひくみ取ってほしい」というお言葉もいただけたので、私としては「感情」というテーマ、そして江の島も面白いと感じたので、生かしたいと思いました。

 初代のアクエリオン(『創聖のアクエリオン』(2005))は日本を舞台としたものではありません。それに続く「アクエリオンEVOL」(2012)もそうでしたよね。この2作品は(3人の過去の人物によって地球が救われた『創聖合体』と呼ばれる出来事から)1万2000年後が描かれたという共通点があるのですが、「アクエリオンロゴス」(2015)では阿佐ヶ谷が舞台になり、創聖合体とのつながりも特に描かれていません。

 実は、この3作品の関係性についても河森監督に質問したことがあります。「初代とEVOLは1万2000年後の世界という設定でつながっていますが、ロゴスは全く異なる世界観のように見えます。これらの作品は、どのようにつながっているのでしょうか?」と尋ねたところ、「マクロスシリーズは、世界観や設定に厳密なルールを設けていますが、アクエリオンはそうではありません。各作品の監督には、自由に世界観を創造してもらっています」という回答でした。

 スタッフについても「やりたい座組があれば、いったん提案してみてください」というお返事をいただいたので、以前別の作品のキャラクターデザインでご一緒した工藤昌史さんを候補に挙げさせていただきました。

 また、シリーズ構成は、かねてより親交があり、私が信頼を置いている村井さだゆきさんに依頼することにしました。村井さんは、故・今敏監督の作品「パーフェクトブルー」(1997年)や「千年女優」(2002年)の脚本を手掛けられた方で、私も作品のファンなんです。そして今敏監督と一緒にお仕事させて頂いた際に、村井さんのいろいろなお話を伺っていました。村井さんに私から連絡を取って「河森さんから、自由にやらせていただけると聞いています」とお話ししたところ、「では、やりましょう」ということになりました。

――河森さん発のアイデアではあるけれど、糸曽監督としても腹落ちがあった「感情」と「江の島」というところ以外は、自由にやってOKという理解で合っていますか?

糸曽:そうですね。ただし、その2つについても強制ではありませんでした。アクエリオンシリーズはそれぞれに多くのファンがいらっしゃいます。私も、過去の作品をリスペクトし、ファンの方々にも楽しんでもらえるような作品にしたいと考えています。同時に、せっかく監督をやらせていただくからには、私自身のオリジナリティーも発揮し、これまでとは異なるエッセンスも加えたいと思っています。

 例えば、キャラクターは企画の段階では何も決まっていませんでしたが、「感情」をテーマにする、「江の島」を舞台に1万2000年前の「前世」の因縁が現代に立ち現れてくるという設定は、河森さんのアイデアを生かしつつ、私自身の解釈も加えて構築しています。また、「永遠の愛」というテーマも、アクエリオンシリーズを通して受け継がれてきたものですが、本作では、現代社会における「愛」の形を問い直すような、新しい視点も取り入れています。

河森氏が語った「合体」の意味

――河森さん発の「感情」というテーマですが、まず「感情」がテーマになった、その理由が語られたりはしたのでしょうか?

糸曽:アクエリオンという作品、私自身楽しく見てきましたし、何でもありで好きなんですが、すごく気になっていることがあって、それを監督にぶつけてみたんです。「合体」シーンはなぜあの様に扇情的な表現になったのかと。

 でも河森さんから帰って来た言葉は「合体というのはそういう意味ではない。あれはいろんな人々の『感情』が入ってきて、自分では気付けなかった事柄が埋まっていく、その様が気持ちいいんだ」というものでした。そのお話を聞いて、なるほど!だったら今作ではもっと分かりやすく、感情の一部――例えば「怒り」とか「愛情」とか、そういったものが欠けている子どもたちが集い、合体することで欠けている部分を補う――そんな作品を作れたら良いなと思いました。

――これまでの話を整理すると、企画の段階で河森さんから「感情」と「江の島」というテーマが提示されていて、糸曽監督もそのテーマに魅力を感じたということですね。さらに、アクエリオンの「合体」は、物理的な合体ではなく、感情の合体であるという河森さんの考えを理解した上で、今作ではその点を明確に打ち出すことになった、という理解でよろしいでしょうか?

糸曽:はい、その通りです。江の島は、古来より龍神や3人の女神(弁天)が祀られているなど、神話の舞台として非常に興味深い場所です。「感情」というテーマとの親和性も高く、物語の舞台として最適だと感じました。

 また、私自身は「少年ジャンプ」のような、分かりやすく熱いストーリー展開が好きなので、「感情が欠けている→合体によって感情が満たされる→新しいことを知り成長する」というシンプルな構造を意識しました。その上で、キャラクター造形においては、「生まれつき特定の感情が欠けている」という設定にすることで、よりドラマティックな展開を生み出せるのではないかと考えました。

「波が合体している」――舞台としての江の島

――感情がテーマというのはよく分かりました。糸曽監督が物語の舞台としての江の島に感じる面白さについて、具体的なキーワードを頂けたりしますか?

糸曽:まず海ですね。河森さんと江の島へロケハンにも行ったのですが、シーキャンドルに登ったときに河森さんがぶつかり合う波を見て「波が合体している……」とぼそっと仰ったのが強烈に印象に残っています(笑)。「名言だ……ホントに面白い方だな」と。

――(笑)。でも、河森さんの「波が合体している」という言葉が、今回の作品のインスピレーションの元になっているのかもしれません

糸曽:そうですね。そういう意味では、河森さんの企画書を綿密に読み込んだ村井さんが、江の島の海や波の要素を物語に巧みに取り入れてくれています。例えば、1万2000年前に滅んだ環太平洋の古代文明の末端部分が江の島であり、そこが海に沈んでアクエリオンが発見された、という裏設定もそうです。波=海のエネルギーとアクエリオン、そして人間の感情が、複雑に絡み合っているんですね。

 今回、1クールという限られた時間の中では、これらの設定や世界観を全て描ききることはできませんが、より深く理解したいという方のために、公式サイトにプロダクションノートを掲載する予定です。そこでは、今回お話できなかった設定や裏話なども詳しく解説していきますので、楽しみにしていてください。

――江の島は映画やアニメなどでも頻繁に登場する場所なので、視聴者も既に江の島の風景や雰囲気を知っている場合が多いですよね。世界観の説明に多くの時間を割く必要がなく、限られた話数の中でも物語を効率的に展開できるというメリットはないでしょうか?

糸曽:おっしゃる通りです。さらに今回は1万2000年前の物語も、各話少しずつ描写されます。そこで何が起こったのか、そしてそれが現代にどのような影響を与えているのかを、視聴者に理解していただけるように工夫して作っているので、注目していただきたいですね。

 例えば、1万2000年前の江の島にも、神の化身である大蛇が登場します。これは、現代の江の島に伝わる龍神伝説と深く関わっており、過去と現在が密接につながっていることを示唆しています。過去の物語を通して、現代の江の島がひも付くような構成になっています。

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