――作品の生まれた経緯、制作手法や体制など、まさに革新ずくめ、という本作ですが、最後に糸曽監督といえば、以前ITmediaで「製作委員会方式やめました」という刺激的なタイトルのインタビューが掲載されて話題になりました。今作は製作委員会方式で製作されていますが、自己資金での「サンタ・カンパニー」(2019)も手掛けた監督として、どのようなスタンスで臨んでいるのか、教えてください
糸曽:あの記事はYahoo!のトップページにも載って、各方面からすごく反響がありましたね(笑)。でも、あのタイトルは私が付けたわけじゃないんですよ。記事の中身を読んでもらえば分かるんですが、私は製作委員会方式を否定しているわけではなくて、ただ単に、オリジナル作品に資金を出してくれるところがなかったので、自分で資金を出して制作したというだけの話なんです。
製作委員会方式は、複数の企業が出資してアニメを制作する方式で、リスク分散や資金調達の面でメリットがあります。しかし、オリジナル作品は原作がないため、成功するかどうかが未知数で、リスクが高いと判断されることが多いです。そのため、製作委員会に参加してくれる企業を見つけるのは、容易ではありません。当時、私も若かったし、「とにかく動けば何とかなるんじゃないか」と思って、いろいろな企業に営業をかけましたが、どこも資金を出してくれませんでした。
そこで、「10年でも20年でも、自分でお金を出して作り続けるしかないのか」と悩みました。あるいは、どこかから資金を調達して、リスクを負ってでも制作するしかない。そう考えて、クラウドファンディングに挑戦したり、お金を借りたりもしました。クラウドファンディングでは、ファンや投資家から資金を募り、その見返りとして、作品への参加権や限定グッズなどを提供します。資金を調達できても今度は、その資金を作品の売り上げから回収しなければなりません。つまり、クリエイティブな作品づくりだけでなく、資金回収のためのビジネス的な活動も並行して行う必要がありました。これは、大変な作業でしたが、多くのことを学ぶことができました。あのインタビュー記事は、そんな私の経験を語ったものです。
一方で、製作委員会方式には、リスク分散のメリットがあります。
例えば、1本の作品に10億円をかけるのではなく、複数の会社が1億円ずつ出資して10本の作品を作り、その中で1本でもヒットすれば、出資した会社はそれぞれの得意分野でビジネスを展開し、投資を回収することができます。そして、回収した資金を元に、次の作品を制作することができます。
このように、製作委員会方式は、リスクを分散しながら、継続的に作品を生み出すことができる仕組みとして、理にかなっていると思います。私自身も、製作委員会方式には大変お世話になっていますし、否定するつもりは全くありません(笑)。
ただ、1つ気になることがあります。それは、製作委員会方式で作品を作っているクリエイターの中には、さも自分が全責任を負っているかのように、「ああしたい、こうしたい」と自分の理想を主張する人が多いということです。しかし、作品がヒットしなかった場合、彼らはどのように責任を取るのでしょうか。
自分の理想を追求した結果、作品が失敗に終わっても、彼らは責任を負う必要はありません。なぜなら、リスクは製作委員会全体で分散されているからです。これは、自己資金で作品を制作した経験がある私からすると、少し違和感があります。自己資金で制作する場合、作品が失敗すれば、全ての責任は自分自身にあります。そのため、クリエイターは、常にリスクを意識し、責任感を持って作品づくりに取り組む必要があります。そこで、今後は、私自身も製作委員会に出資する側に回ってみようと考えています!
――おお! それは新しいですね
糸曽:そもそもそれが許されるかは分からないですが(笑)。でも、本作とは別案件で、向こうからそういう提案もいただいたことも実はありますし、本作でも製作委員会の皆さんとお仕事させていただく中でいろいろ勉強させてもらってもいます。クリエイターもリスクを負うことでヒットしなかったときの責任もとれるし、何よりもいろんな数字も見せてもらえるので面白いと思うんですよね。
――音楽やマンガの世界では、SNSでの活動を通じてリスクを取りながら、直接ビジネスにつなげているクリエイターが生まれていますが、確かにアニメだと資金が必要となるので、そういった動きをされている人はまだまだ少ないと思います
糸曽:「サンタ・カンパニー」は私が100%権利を持っているので、例えば図書館に卸すとか、複製原画などを資料や教材として販売するとか、金額は大きくないけれどテレビ・配信作品とは違う時間軸でやれることっていろいろあるんですよね。時間軸という意味では、22年に学生たちと手掛けたYOASOBIのミュージックビデオもありますが、かつて自分のもとで学んだ学生たちが、本作『想星のアクエリオン Myth of Emotions』でスタッフとして合流してくれていて、商業アニメーションと学生とのプロジェクトもある意味「未来への投資」で地続きだということも実感しています。
――なるほど。今回の「想星のアクエリオン」も楽しみですし、糸曽監督のこれからのチャレンジにも引き続き注目していきたいと思います。今回はお忙しい中、長時間ありがとうございました
©2023 SHOJI KAWAMORI,SATELIGHT/Project AQUARION MOE
「製作委員会方式」やめました アニメ製作変え、教育現場を動かす気鋭の学科長
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