――キャラクターやメカなどの設定は、舞台となった江の島とどのように関係しているのでしょうか?
糸曽:江の島は、実際に訪れてみると分かりますが、見る角度や場所によって全く異なる表情を見せる場所です。例えば、第二次世界大戦末期には、旧日本軍によって要塞化されていたという歴史があります。戦闘機に詳しい方から聞いた話ですが、江の島につながる橋(江の島大橋)は、戦闘機の滑走路として利用できるほどの長さがあるそうです。こうした地理的な特徴を生かし、今回は、ベクターマシンが発進する基地を江の島に設置するという設定にしました。
さらに、今回登場するベクターマシンは、これまでのアクエリオンシリーズに登場したマシンよりもサイズが小さく設計されています(※従来のアクエリオンの全高は約50m)。これは、3機のベクターマシンが、江の島に設置された3つのカタパルトから同時に発進するシーンを、よりリアルに描写するためです。このように、江の島の地形や歴史をメカ設定やアクションシーンに反映させています。
ネットではキャラクターデザインが話題になっていますが、先日公開したPVにもワンシーン登場しているので注目して頂けるとうれしいです。江の島界隈の方々からは「大橋が!」という反応もいただきました。
PVではキャラクターデザイン、特にデフォルメされた表現についてさまざまな反応がありましたが、私としては狙いがあって今回のデザインにしているつもりです。
「サンタ・カンパニー 〜真夏のメリークリスマス〜」(2019)で工藤さんにキャラクターデザインをお願いした際、アメコミ風のデフォルメしたデザインが格好良かったんです。
オンラインでの打ち合わせで、工藤さんには「今回もアメコミ風のかっこいいデザインでお願いしたい」と伝えました。すると、工藤さんは「アクエリオンでアメコミ風ですか!?」と驚かれましたが、「でも、面白そうですね」と、すぐに興味を示してくれました。その様子を見ていたシリーズ構成の村井さんも「面白そうなので、ぜひやってみましょう」と賛同してくれました。
――キャラクターデザインを採用するにあたってほかにもさまざまな意見があったと想像しますが、糸曽監督のこだわりについて詳しく教えてください
糸曽:そうですね。正直、製作委員会やプロデューサー陣からは「本当にこれでいいのか?」という声も上がりました(笑)。しかし、私個人としては、実は「これまでのアクエリオンとは違う!」と視聴者に思ってもらいたいという気持ちが強くありました。当初は私ももう少しリアル寄りのデザインも検討していましたが、キャラクターデザインを担当した工藤さんが「どうせやるなら、もっと大胆に変えましょう」と、次々と斬新なアイデアを提案してくれたんです。
当時、工藤さんは人気パズルゲームアプリ「ぷよぷよクエスト」(2021)のアニメーション監督も務めており、その経験から生まれたデフォルメ表現は非常に魅力的でした。
それを見ていて「これくらいグラフィカルな方が動かした時も面白い。攻めていこう」と感じましたし、ストーリーもそこに当てていきました。そして、村井さんの意見も取り入れながら、工藤さんがその場でキャラクターを描いていき、個性的なキャラクターが誕生しました。脚本もキャラクターに合わせて書かれたんです。あのデザインだからこそ生まれたストーリーを、村井さんが作り上げてくれたと思っています。
実はもっと攻めた案もあったのですが、今のアニメーターさんで、動かせる(アニメーションとしての動きがついた原画を描ける)人がほとんどいない、ということもわかったので、この案、つまりデザインはとがっているけど動きとしてはよく目にする形に落ち着いています。
【キャラクターデザイン工藤昌史氏によるコメント】
今回のデフォルメの効いたキャラクターについてですが、最初に監督から『サンタ・カンパニー 〜真夏のメリークリスマス〜』の流れで、デフォルメ系キャラクターでアクエリオンの濃い物語を表現したいとお話があり、面白いチャレンジだと思いました。そのためにデフォルメ方針のスタッフ間共有用の“手のポーズ集”などを作成したり、キャラ表に注釈を入れたりということをしました。
監督のイメージや、村井さんのイメージ、人物設定が明確で迷うことはありませんでした。苦労というのではないですが、デフォルメ具合の検討のために、数パターン作成したものを会議にかけて決定するなど、今作ならではの手順を踏んだという思い出があります。
ネタバレにならない範囲で言えることは、それぞれのキャラクターに用意されている設定や物語はかなり濃いので、ぜひお楽しみください。
糸曽:一方、1万2000年前の世界はちゃんと説得力のある物語にしないといけないと考え、そちらはがっちりリアルにしています。
――なるほど。現代的な世界観と、デフォルメされたキャラクターのルックを対比させることで、独特の雰囲気を生み出しているのですね
糸曽:はい。また各キャラクターの感情が欠落している理由も、過去の世界と深く関わっています。アクエリオンシリーズは、初代から続く世界観を共有しているのでそこに矛盾が生じないように、過去と現在のつながりを丁寧に描く必要がありました。今作では、1万2000年前の過去の世界で、天翅族が感情をやりとりするために使っていた「翅(はね)」が重要な役割を担っています。
この「翅」は、単なる羽根ではなく、感情がオーラのように具現化したもので、生物的な存在として描かれています。そして、ある出来事がきっかけで、天翅族は「翅」を失ってしまい、その影響は現代にまで及んでいるのです。
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