このコーナーでは、2014年から先端テクノロジーの研究を論文単位で記事にしているWebメディア「Seamless」(シームレス)を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。
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イタリアの研究機関「CNR Nanotec」などに所属する研究者らが発表した論文「Emerging supersolidity in photonic-crystal polariton condensates」は、レーザー光と物質の相互作用を利用して、「超固体」と呼ばれる特異な物質状態を実現することに成功した研究報告だ。
超固体とは、固体のように規則正しい結晶構造を形成しながらも、液体のように摩擦なく流れるという不思議な性質を持つ。
この超固体の存在は50年以上前に理論的に予測されていたが、実験で確かめられたのはごく最近のことだ。これまでの実験は主に絶対零度近くまで冷やした原子集団(ボース・アインシュタイン凝縮体)を使って行われてきた。今回の研究では、これらとは全く異なるアプローチとして、光と物質の複合粒子である「ポラリトン」を利用している。
研究チームは、特殊な微細構造を持つ「フォトニック結晶導波路」と呼ばれる装置を開発し、その中で光の粒子(フォトン)と半導体中のエキシトン(電子とその抜け穴である正孔がペアになって形成される電気的な励起状態)が強く結合した状態を作り出した。この結合状態がポラリトンとして振る舞い、それらが集団として凝縮することで量子流体を形成する。
実験では、このポラリトン凝縮体が固体のように粒子が規則正しく並ぶ性質を示しながらも、液体のように全体が一つの波として統一的に振る舞うという、超固体特有の性質を観測することに成功した。
この研究成果は、科学雑誌「Nature」に3月5日付で掲載された。
Source and Image Credits: Trypogeorgos, D., Gianfrate, A., Landini, M. et al. Emerging supersolidity in photonic-crystal polariton condensates. Nature(2025). https://doi.org/10.1038/s41586-025-08616-9
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