このコーナーでは、2014年から先端テクノロジーの研究を論文単位で記事にしているWebメディア「Seamless」(シームレス)を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。
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ノルウェーのベルゲン大学などに所属する研究者らが発表した論文「The xenacoelomorph gonopore is homologous to the bilaterian anus」は、珍無腸動物門(Xenacoelomorph)を遺伝子調査することで肛門の起源の仮説を導き出した研究報告である。
動物の体の構造において、消化管は食物を取り込み、栄養を吸収し、残りを排出するために重要な役割を果たしている。多くの動物は口と肛門の2つの開口部を持つ貫通型の消化管を持っているが、これは効率的な消化を可能にする進化である。
この研究では、珍無腸動物と呼ばれる単純な体制を持つ生物群について調査した。これらの生物は口はあるが肛門はなく、代わりに「雄性生殖口」と呼ばれる精子を放出するための開口部を持っている。
珍無腸動物門は、系統樹上で他の左右相称動物(口と肛門を持つ動物群)の姉妹群に位置すると考えられており、肛門の進化的起源を探る上で重要な位置を占めている。
動物の消化管の進化を示す系統樹 刺胞動物門(CNIDARIA)は口(mo)のみを持つ盲腸型消化管を持つ 側系統群の左右相称動物(BILATERIA)は、さらに珍無腸動物門(Xenacoelomorpha)と腎動物(Nephrozoa)に分かれる研究では、肛門の発生に関わる遺伝子が、珍無腸動物門の雄性生殖口の周囲で発現していることを発見。これらの遺伝子は通常、左右相称動物の後腸と肛門の形成に関与している。この発見は、珍無腸動物門の雄性生殖口と左右相称動物の肛門が進化的に同じ起源を持つ(相同である)ことを強く示唆している。
複数の珍無腸動物門を調査し、これらの種全てで同様の遺伝子発現パターンを確認した。特に、Xenoturbella bockiでは以前に記述されていなかった雄性生殖口を発見し、珍無腸動物門全体で雄性生殖口が基本的な特徴であることを示した。
これらの結果から、研究者らは肛門の進化的起源について新しい仮説を提案する。左右相称動物の共通祖先は、最初は口だけを持つ単純な消化管と、精子を放出するための雄性生殖口を持っていた。その後の進化過程で、この雄性生殖口が消化管の後部と接続するようになり、これが現代の左右相称動物における肛門の起源となったと考えられる。
Source and Image Credits: Carmen Andrikou, Kevin Pang, Aina Borve, Tsai-Ming Lu, Andreas Hejnol. The xenacoelomorph gonopore is homologous to the bilaterian anus. bioRxiv 2025.02.10.637358; doi: https://doi.org/10.1101/2025.02.10.637358
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