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ブラックホールが「宇宙に空いた穴」「何でも吸い込む」は誤解 意外と知らない“5つの真実”(2/3 ページ)

» 2025年06月12日 08時00分 公開
[彩恵りりITmedia]

 とはいえ、ブラックホールが何かしらの物質を吸収できるということは、近くに恒星や星雲などの物質があることになります。宇宙は広いため、物質が近くにあるブラックホールというのはかなりの少数派です。つまり宇宙には、直接観測できないブラックホールがかなり隠れていることになります。

 しかし近年、ブラックホールの重力が遠くの星の光を曲げる「重力レンズ効果」や、ブラックホール同士の衝突で発生する「重力波」を捉えることにより、間接的な手法ながらも、従来は決して見つけられなかったブラックホールについても発見できています。見えないブラックホールという多数派を見つけられるようになったことで、宇宙物理学などの分野は発展を遂げています。

誤解3:「ブラックホールは近くにあるものを何でも吸い込み、引き裂く」の真実

ブラックホールに近づく物体は、ブラックホールに近づくにつれて引き延ばされる「スパゲティ化現象」を経験するが、その度合いはブラックホールの大きさによって変化する(Image Credit: Laura A. Whitlock, Kara C. Granger & Jane D. Mahon) 】

 ブラックホールが危険だというイメージは、主にSF作品を通じて定着しているでしょう。しかし、ブラックホールは近くにあるものを無差別に吸い込んだり引き裂いたりするわけではありません。

 ブラックホールの近くの重力が強いことは確かですが、それは同じ重さの他の天体と比べての話です。ブラックホールと同じ重さの天体を用意し、中心から同じ距離にいたとすれば、ブラックホールの重力は他の天体と区別できません。

 もし今この瞬間、太陽を太陽と全く同じ重さのブラックホールに置き換えたとしても、地球を含めた太陽系の全ての天体は、相変わらず同じ公転軌道を維持します。太陽の輝きを失う事による滅亡があったとしても、地球自身は吸い込まれることはありません。

 ブラックホールの近くを通る物体が吸い込まれるかどうかは、ブラックホールからどれくらいの距離にあるのかどうかに加え、その物体が加速・減速できるかどうかにもかかっています。

 もし、十分に速度を変更できる物体ならば、事象の地平面を横切らない限り、ブラックホールにどんなに接近しても、そこから脱出できるルートは残っています。この性質があるために、私たちはブラックホールの周辺部から放たれた光を見られるのです。

 また、ブラックホールの近くでは、物体が引き延ばされるスパゲティ化現象が起こり、何でも引き裂かれてしまうイメージがあります。確かに、太陽の数倍程度という軽いブラックホールの場合、これは正しいです。軽いブラックホールに数百kmまで近づくと、人間サイズの物体はバラバラに引き裂かれてしまうでしょう。

 しかし、例えば銀河中心部にある、太陽の数百万倍の大きさの巨大なブラックホールの場合、事象の地平面の近くに接近しても、引き裂かれるどころか、何の違和感も感じないでしょう。

 このような大きな差が生じるのは、ブラックホールの周りの重力場が関係しています。正確な理由はやや難しくなってしまうため割愛しますが簡単に言うと、天体から受ける重力は遠ざかるごとに弱くなりますが、実はつま先と頭程度の距離でも、ごくわずかに重力の強さに差があります。

 普通の天体ではあまりに弱すぎて感じ取れない差になりますが、中心部に近づくに従ってどんどん重力が強くなるブラックホールでは、その差が無視できなくなり、受ける力の強さの差で物体が引き裂かれてしまいます。このような極端な力の差が生まれるまでの距離は、ブラックホールの重さによって決まります。

 一方、特異点から事象の地平面までの距離である「シュワルツシルト半径」もブラックホールの重さによって決まります。シュワルツシルト半径が大きくなるスピードは、物体を引き裂く極端な力の差が生まれるまでの距離よりもずっと早く進みます。この差により、巨大なブラックホールならば近くまで寄っても安全ということになります。

 従って、ブラックホールを観光するならば、なるべく大きなブラックホールの方が安全です。ただしもちろん、事象の地平面を横切れば話は別です。特異点へと落下するに従って、無視できるほど弱かった力の差はだんだんと強くなるため、特異点衝突のはるか前に潮汐力でバラバラに引き裂かれます。

 また、人間よりずっと大きなもの、例えば恒星の場合には、巨大なブラックホールであってもバラバラに引き裂かれてしまいます。あまり大きなものは持ってこない方が良いでしょう。

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