この夏、あるアニメ作品が話題となっています。それが、「少年ジャンプ+」で連載していたタイザン5さんのマンガをアニメ化した「タコピーの原罪」。海外でも評価は高く、エンタメ情報サイト「IMDb」では、6話が全て10点満点中の9点台となっています。ちなみに8点以上なら「名作」といわれるそうです。
タコピーの原罪は、テレビ放送はせず、各種配信サイトでのみ見られるWebアニメです。その理由として考えられるのが、いじめや暴力などの過激な表現と、“鬱(うつ)展開”と呼ばれる暗く重いストーリー。アニメ公式ページがTBSのWebサイト内にあるのに放送しないのは、地上波の都合や自主規制に表現を制限されることを嫌ったからかもしれません。
ストーリーは、みんなをハッピーにするために地球にやってきた宇宙人のタコピーが、しずかちゃんという女の子をハッピーにしようとするが、実は彼女の家庭や友人関係には複雑な事情があって……というもの。しずかちゃんの周囲にいる子供たちは、皆それぞれ家庭に問題を抱えています。DVやネグレクトを受けて苦しみ、しかしそのやり場のない気持ちをどうすれば良いか分からず、苦悩する彼らの心情を本作では丁寧に描写しています。
人によっては、見ていてつらくなるかもしれません。可愛らしいキャラデザインと残酷な描写のギャップも、逆にその恐ろしさを際立たせています。
そんな中、彼らをハッピーにするために奔走するタコピーの存在は良いアクセント。ときに残酷なシーンを和らげ、ときに残酷さを浮き彫りにする彼の存在は、他の作品にはない魅力です。ストーリーもうまくまとめられ、その展開にちょっとした仕掛けもあって好印象でした。
しかし、正直にいうとボクの心にはあまり刺さりませんでした。本作における社会問題は、あくまでキャラクター描写やストーリー進行に必要な要素で、描写の仕方はインパクト重視でセンセーショナル。それ自体を作品テーマにはしていませんし、読者に何かを訴えようとしているようにも見えません。
つまりは作品を盛り上げる“舞台装置”としてのみ機能しているような気がして、ボクには少し空々しく見えてしまったのです。インパクト狙いの映像作品なら過去にもたくさんあり、40代のボクはそうした展開に慣れてしまっている点も大きいのかもしれません。
一方で、舞台装置だからこそ、その描き方に押しつけがましさはなく、見る側がより自由に解釈し、考察できる余地もあるのではないかと感じました。ネット上で考察や議論が盛んに行われるのも分かりますし、もしボクが十代のころにタコピーに出合っていたら、ドハマりして議論に参加していたかもしれません。
結局、ボクがタコピーの原罪にハマらなかったのは、自分がもはやスレた中年オヤジになってしまったからなのでしょう。この作品は、タコピーを通じて、自分の心の中にあるピュアな部分を測るバロメーターなのかもしれません。
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