このコーナーでは、2014年から先端テクノロジーの研究を論文単位で記事にしているWebメディア「Seamless」(シームレス)を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。
X: @shiropen2
中国科学技術大学を中心とする研究チームが発表した論文「Robust quantum computational advantage with programmable 3050-photon Gaussian boson sampling」は、これまでで最大規模となるフォトニック量子コンピュータ「九章4.0」(Jiuzhang4.0)を開発し、従来の古典スーパーコンピュータでは事実上不可能な計算を瞬時に実行できることを実証した研究報告だ。
研究チームの計算によると特定の問題において、現在世界最速のスーパーコンピュータ「EI Capitan」を使っても、九章4.0が25.6マイクロ秒(0.0000256秒)で生成する結果と同じものを得るには、10の42乗年以上かかることが分かった。これは10の54乗倍(100恒河沙)という途方もない高速化を意味する。
「量子計算優位性」とは、特定の問題において量子コンピュータが古典コンピュータよりも指数関数的に高速に計算を完了できる能力を指す。この優位性を実証する有力な手法の一つが「ガウシアンボソンサンプリング」(Gaussian Boson Sampling、GBS)である。しかし、光を用いた量子コンピュータでは、光子が回路の途中で失われる「光子損失」が課題であった。
九章4.0は、この課題を克服するために設計された。研究チームは、1024個の高効率なスクイーズド光を、空間と時間を組み合わせた8176モードのプログラム可能な光量子プロセッサに入力した。
特に、光子損失の主な原因となる光源の効率を、従来の70%から92%へと大幅に向上させることに成功。その結果、実験では最大で3050個の光子を同時に検出するという、これまでの記録を1桁以上も上回る成果を達成した。システム全体の効率も51%と、従来の光量子コンピュータと比較して格段に高い性能を示している。
Source and Image Credits: Liu, Hua-Liang, et al. “Robust quantum computational advantage with programmable 3050-photon Gaussian boson sampling.” arXiv preprint arXiv:2508.09092(2025).
“6兆分の1秒”で電子1つを見つける新技術 英国と韓国の研究チームが発表 量子コンピュータへの応用に
宇宙最大級、11個の超巨大ブラックホール集団を発見 偶然生じる確率は“10の64乗(=1不可思議)分の1未満”
ロシアの裁判所、Googleに対し20000000000000000000000000000000000ドルを賠償請求か
「量子コンピュータはスパコンより速い」のウソと本当 日本設置の意義は
アインシュタインの“特殊相対性理論”を使った量子コンピュータ、国際チームが設計に成功Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
Special
PR