昨今、中国産のBL(ボーイズラブ)が人気を広げていることはご存じだろうか。中国のWeb小説を原作としたアニメ「魔道祖師」(まどうそし)「天官賜福」(てんかんしふく)は日本でもアニメを放送・配信。日本語版声優には神谷浩史さん、福山潤さん、緑川光さんらを起用する力の入りぶりだ。
一方、7月には共同通信が中国BL作家の一斉摘発を報じたこともあり、表現規制の観点でも注目が集まった。とはいえ、中国にはインターネット検閲システム「金盾」が存在し、SNSなども独自サービスが使われていることから、現地のBL文化を知る機会は少ない。
そこで本記事では、BLも扱う中国の出版社に務めるAさん、日本在住でBLオタクのBさん、そして中国BL文化に詳しい日本のマーケティング企業C社(それぞれ、希望により社名や個人名は仮称)に取材し、中国BL文化の現状を探った。それぞれの取材からは、表現規制によって独自に進化した“花園”の一端が垣間見えた。
まず、日本におけるBLと、中国におけるBL(「耽美」と呼ばれる)の違いを整理しておく。恐らく読者諸氏の多くは、BLと言われたら「男性同士の性的関係を中心としたつながり、もしくはそれを示唆する要素を扱う成人向け作品」を思い描くだろう。そうでないものもあるが、大半が「健全」「全年齢向け」として区別されているはずだ。
しかし、中国におけるBLは少し趣向が異なる。というのも、中国では政府当局が性描写を取り締まっており、日本でいうレーティングが存在しない。そのため、BLであっても未成年が見ても問題ないように作らなければいけないという。
つまりは性描写以外、もしくはその比喩で“2人の関係性”を描かなければいけないわけだ。結果、中国では性描写の部分を文学的な比喩──例えば性行為を「山に登って、はぁはぁと息切れする」といった描写で代替するもの、もしくは歴史やスポーツ、SFなどさまざまな世界観や設定を背景に、性的な表現なしに男性同士の濃密な関係性を描くジャンルがBLとして出回っているという。
日本のBLはイラストや漫画が主流だが、中国では小説など文字媒体が主流で、漫画を原作とした作品は人気が出にくいとAさん。ただし、小説が漫画化・アニメ化されるケースは少なくないとしている。
作品の主な出どころはWeb小説サイトだ。中国のBL作家は、主に「晋江文学城」「長佩」といったプラットフォームで作品を投稿しており、Aさんも同様のサービスから作家を発掘している。
ただし、中には“抜け穴”もある。晋江文学城などとは別に「海棠文学」というWeb小説サイトがあり、ここでは性描写を含む作品が投稿できる。というのも、同サービスは台湾の企業が運営しており、中国本土の規制対象ではない。ただし、VPNを通してアクセスはできるため、中国の利用者も少なくないという。
さらに海棠文学には小説の販売機能もあり、本来中国からは購入ができないが、若者が代理購入サービスを通して入手する例も多いとC社。海棠文学は代理購入サービスの利用を半ば推奨もしていたため摘発につながったとの見方もあるという。
二次創作をはじめ、ファン活動が盛んなのも日本と同様だ。これらのサービスには投げ銭機能やランキング機能が存在するものもあり、特に晋江文学城だと“推し作家”“推し作品”を上位に入れようとするファンも少なくない。
SNSでも同様で、小紅書(RED)や微博(Weibo)といったプラットフォームで二次創作を公開したり、ファン同士が交流したりする。BLが全年齢向けの扱いになっているため、ファンが集まって人気BL作品をトレンド上位に押し上げようとする動きが見られることもあるという。
同人誌即売会などのイベントでファン同士が交流することもある。ただ、ファン同士の秘めた集まりという趣が強い日本のイベントに対し、中国では“公式”となる企業や組織が積極的にかかわってくる傾向があり、Aさんによれば米国の「コミコン」に近い雰囲気の催しが多いという。
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