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コロナ禍に襲われ、Alibabaでの拡販も苦戦……とある産業部品メーカーが、それでも海外進出できたワケニッチ企業でもできる!IT活用で海外進出

» 2025年09月30日 15時00分 公開
[本村丹努琉ITmedia]

 世界でも高い技術力を持つことで知られる日本企業。ニッチ分野で目立たないものの、高い技術や世界シェアを持つ企業は少なくない。ドイツの経営思想家のハーマン・サイモン氏はこうした企業を「隠れたチャンピオン」と定義し、経済産業省も「グローバルニッチトップ企業」として支援している。

 グローバルニッチは高い技術力を持つ一方で、知名度が実力に比べて劣り、ITを駆使して海外でのブランディングや販売に生かしていることも多い。この連載では、こうした企業のIT戦略をインタビューで深堀りする。

 第5回は産業用部品を製造する高洋電機(三重県度会郡)を取り上げる。高祖雅規社長によれば、同社は新型コロナウイルスの感染拡大などに海外進出を阻まれながらも、ITを活用しながら2022年に米国進出を果たしたという。聞き手は、海外進出する中小企業のブランディング支援などを手掛けるZenkenの本村丹努琉(もとむら・たつる)。

コロナに阻まれた海外進出、“反転攻勢”の流れは

──高洋電機は産業用部品を製造・販売しています。概要と強みを教えてください

photo 高祖雅規社長

高祖:当社はボルトやナットなど産業用の部品を製造・販売しています。取引先は医療、半導体、自動車、産業用機器、錠前部品、建機部品、光学部品、事務用機器など200社近くに達しています。当社の強みは、通常の加工方法では切削や加工が難しい「難削材」でも加工できることです。

 例えばタングステン、モリブデン、タンタルなどの難削材でも高精度に加工することができるため、半導体製造装置や医療機器業界などに部品を提供しています。鉄やアルミニウムなど一般的な鋼材はどうしても価格競争になってしまいますが、難削材を高精度で加工できる当社は、そうした競争に陥りづらい面があります。

photo 高洋電機は産業用の部品などを製造している

──難削材や錠前などの加工は国内だけでも需要が多いと思いますが、海外進出した理由を教えてください

高祖:事業を安定的に成長させることが目的です。国内事業や一部の業界に依存すると、当社の事業も浮き沈みが激しくなってしまうためです。国内外で受注できるようにすれば、事業ポートフォリオを多様化できます。海外はクライアントのスケールが大きく、仕事自体も面白いと感じています。

photo 高洋電機の第三工場

──海外進出に当たっては苦労もあったと聞いています

高祖:20年に海外進出を考え、同年2月に米カリフォルニア州アナハイムの医療関連の展示会を視察しました。ところが新型コロナウイルスが世界的に大流行し、米国での展示会自体が全て中止になってしまいました。

 このためWebベースのセールスレターを送って、反応があった企業と面談するサービスに入り、何社かと話をしましたが、進展はありませんでした。ただ、この時に営業の説明資料をつくったり、うまくいかなくても面談を申し込んだりした経験は、その後の営業活動に生きたと思います。

 この間に米シカゴに駐在員事務所を設立し、英語の公式サイトを作るなど、準備を進めました。誰かが当社に興味を持って、次にやることはネット検索です。検索しても当社の名前が英語で出てこなければ仕事になりません。

photo 同社の英語サイト

 公式サイトを通じて注文や問い合わせを受けることもできます。海外進出するなら現地の言葉による情報提供は不可欠です。このため、コロナ禍で事業展開できない代わりに将来を見据えたインフラを整えるよう努めました。

──うまくいかなくても準備を怠らず、チャレンジした経験を糧にしていくということですね。実際に米国に進出できたのはいつですか

高祖:22年になって米国で展示会が復活したことをきっかけに本格進出できました。具体的にはサンフランシスコで開催された半導体関連の展示会に出展しました。しかし、当時、日本では政府や自治体が「3密」回避を主導する一方、米国では人々がマスクすらしていませんでした。日米で大きな温度差があったのです。

photo サンフランシスコの展示会

 特に展示会は代表的な「3密」のイベントで、感染リスクは少なくありませんでした。仮に海外で感染すれば、日本に帰国できなくなるリスクがありました。日本に帰るためには、新型コロナウイルスについて「出国前72時間以内の陰性の検査証明書」を提出しなければならず、検査で陰性にならないと帰国ができなかったからです。「もしかしたら日本に戻れないかもしれない」とびくびくしながら展示会に参加しました。

──厳しい状況で参加した展示会の結果はどうでしたか

高祖:潜在顧客からの反応は非常に良かったと思います。ターゲットとなる企業十数社と話ができ、このうち6〜7社から問い合わせをいただきました。結果として半導体製造装置の製造企業3社から注文をいただけました。

──海外進出してすぐに結果が出るのは珍しいと思いますが、成功の理由は

高祖:当社の事業が米企業のニーズに合ったということだと思います。ただ、事業内容の説明の仕方も大事です。例えば、4cmくらいの金属に0.2mmくらいの小さな穴を貫通させた現物を見せたところ、米企業の担当者らが高く評価してくれました。その後も米国で半導体関連の展示会に出展し、100件近くの問い合わせや十数件の注文を受けました。

 一方で出展してもうまくいかなかった事例もあります。工作機械関連の展示会、つまり半導体以外の展示会にも出展しましたが、注文につながりませんでした。的確にターゲットを絞ることの大切さを学びました。

──高洋電機の場合、失敗や苦労をうまく生かして海外事業の成功につなげているように思います。他にも失敗を生かした事例はありますか

高祖:例えば、21年に応募したJETRO(日本貿易振興機構)による「アリババBtoBオンライン展示会」が挙げられます。当時JETROや中国Alibabaのサポートを受けて、ビデオレターやネット配信などをやってみましたが、残念ながら注文につながりませんでした。Alibaba(のプラットフォーム)という媒体自体が、B2C(対個人取引)のイメージが強く、B2B(対企業取引)の当社とはマッチしませんでした。

 工作機械関連の展示会への出展で感じたことと同じように、適切なターゲットに情報提供や営業をしていくことが大事だということを痛感しました。こうした複数の経験を経て、米国での顧客獲得につながったといえると思います。

──Alibabaのような著名なサイトでも、適切なターゲティングができていなければ成功は難しいということですね。一方、海外進出の際にITを活用して良かった事例はありますか

高祖:もちろんあります。米国は日本と企業文化が違い、なかなか直接会ってくれません。しかし、オンライン会議は気楽で場所を選ばないことから意外に応じてくれます。海外では顧客とコミュニケーションを取るのに重要なツールになると思います。私の感覚では、米国では最初は展示会などで対面接触し、2回目以降はオンライン会議を通じてコミュニケーションを密に取っていくのが良いと思います。

著者プロフィール:本村丹努琉 Zenken取締役

通信機器販売やエネルギーコンサルティングなどのベンチャー企業3社で営業責任者として組織構築に従事。1人のカリスマだけに頼らない組織営業スタイルを確立し、収益増に貢献した。2009年に全研本社株式会社(現:Zenken株式会社)に入社し、ウェブマーケティングを担当する「バリューイノベーション事業部」(現:グローバルニッチトップ事業本部)の立ち上げに参画。コンテンツマーケティング黎明期から、オウンドメディアを基軸とした WEBブランディングを提唱し、14年間で約8000社のインサイドセールスを構築した。

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