パキケファロサウルス類には、祖先の化石もあまり知られていないという問題がありました。パキケファロサウルス類は恐竜の二大グループの1つである「鳥盤類(鳥盤目)」に分類され、やはり有名なトリケラトプスを含む「角竜類(角竜下目)」と近縁であると考えられています。
パキケファロサウルス類と角竜類をまとめた分類は「周飾頭亜目」と呼ばれますが、両者は後期ジュラ紀の約1億6100万年前に共通祖先から分化したと考えられています。
しかし、パキケファロサウルス類の化石は、その大半が約7700万年前から6600万年前、すなわち後期白亜紀のさらに後ろ半分という、非常に限定的な時代でのみ見つかっていました。
例外的に、「シノケファレ・ベクセリ(Sinocephale bexelli)」という種のみが約9200万年前の地層から見つかっていますが、ドーム部分のさらに一部のみに基づいており、しかも化石標本そのものが失われ、精巧とはいえ石こう型に基づいて記載されたものです。
このような情報の不足により、パキケファロサウルス類が他の飾頭亜目からいつ頃分かれ、あれほど特徴的な頭蓋骨を持つようになったのかは、正確には分かっていません。パキケファロサウルス類の謎の答えは、ざっと7000万年ほどの時代的ギャップに埋もれていることになります。
チンゾリグ・ツォクトバートル氏などの研究チームは、2019年にモンゴル国に広がるゴビ砂漠にて発掘調査を行いました。この調査はもともと、2015年に見かけたものの、当時は発掘せずにいた別の化石を掘り出すことが狙いでした。しかし、残念ながらその化石は風化作用により消えていました。
一方で偶然にも、別の露頭(地表で岩石などが露出している場所)にて新しい化石を発見しました。保存状態が良かったため、研究チームは露頭からの露出状況は「まるで宝石のように美しかった」と表現しています。発掘とクリーニングを行った結果、推定体長約1mの、保存状態の良いパキケファロサウルス類の全身骨格化石であることが判明しました。これまでの発見と比べて骨格の多くがそろっている点も重要ですが、発見された時代も重要です。
この化石は約1億800万年前のフルン・ドッホフレン・ドゥフ層(Khuren Dukh)から見つかっており、これは前期白亜紀に当たります。大半のパキケファロサウルス類が約7700万年前以降、最も古いとされるシノケファレでも約9200万年前であるため、少なくとも1400万年も時代をさかのぼることになります。当然ながらこれはパキケファロサウルス類では最古の化石となります。
今回見つかった化石(標本番号:MPC-D 100/1209)は、いくつかの特徴から新属新種として記載され、後述する発見の重大性や発見状況を反映して「原初の尊い頭」を意味する「ザヴァケファレ・リンポチェ」と名付けられました。
ザヴァケファレの発見の重要性は、例えば以下に示す通り、5つの世界初があることからも端的に見えてきます。
ザヴァケファレが見つかった地層は約1億800万年前であり、前期白亜紀に当たります。これは、これまでに知られている中で最も古いパキケファロサウルス類であることになります。
パキケファロサウルス類は全体として身体が小さく、特に指の骨のような細かい骨は残りにくいです。ザヴァケファレによって初めてパキケファロサウルス類の指の特徴が明らかになったため、この発見は重要です。
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