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Nature掲載で“身バレしたVTuber”でも話題──最古のパキケファロサウルス類「ザヴァケファレ・リンポチェ」発見 その謎とは?(3/3 ページ)

» 2025年10月02日 08時00分 公開
[彩恵りりITmedia]
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世界で初めて、胃石を伴って見つかったパキケファロサウルス類

 胃石とは、文字通り胃などの消化管があったと思われる位置に見られる石です。主に植物食の恐竜に見られ、植物を細かくすりつぶす役割があったと考えられています。パキケファロサウルス類で胃石が見つかったのは初めてですが、この発見により新たな謎も生まれました。

 植物食の恐竜の胃石は摩耗によって角が取れている場合が多いのですが、ザヴァケファレの胃石は角が残されています。これは、ザヴァケファレは完全な植物食ではなく、肉も食べる雑食であったことを示すのかもしれません。あるいは、想像だにしない全く別の役割があった可能性もあります。

世界で初めて、年齢が推定されたパキケファロサウルス類

 今回の研究では、ザヴァケファレの脚から薄い断面を取り、観察を行いました。その結果、はっきりと観察可能な成長線(木の年輪のような線)を2本確認し、この化石は推定年齢2歳以上の若い個体のものであったことが判明しました。このような正確な手法で年齢を推定したのは、パキケファロサウルス類では初めてのことです。

脚の断面写真 特に写真の下側が分かりやすいが、木の年輪のような成長線が2本あることから、この個体は2歳以上であることが推定されます(Credit:研究チーム)

 後述するように、この若い年齢は、パキケファロサウルス類の頭部のドームの発達を考える上で重要です。

世界で初めて、完全な尾が見つかったパキケファロサウルス類

 細かい骨が残りにくいため、尾も完全な状態で保存されることは、まれです。今回の化石では、ほぼ先端まで尾が残されていました。しかし、重要なのはそれだけではありません。

 ザヴァケファレの尾を拡大してみると、筋肉と骨をつなぐY字状の腱(骨化腱)が見られます。これはより新しい時代のパキケファロサウルス類でも見られる構造ですが、それと比べるとまだ強い構造を獲得していないようです。

 これまでの研究で、パキケファロサウルス類はカンガルーのように後ろ足と尾の3点で身体を支えて立ち上がり、時には尾だけで身体を支えて前蹴りをする行動をしていた、という説があります。

 これは尾の腱構造が根拠の1つとなっていましたが、少なくともザヴァケファレに関してはそれほど強い尾であるようには見えません。仮にパキケファロサウルス類がカンガルーのような姿勢を取ったとしても、ザヴァケファレに関しては時々行う程度であったと考えられます。

ザヴァケファレは早い段階で大人の頭を持つ

横から見た図(左側写真)と、上から見た(右側写真)頭蓋骨 パキケファロサウルス類でイメージされるドーム状の頭頂部が観察できます(Credit:研究チーム)
今回の研究で実施された系統分析により、ザヴァケファレは見つかった時代としては最古であり、パキケファロサウルス類の基盤的な位置にいるものの、系統としての最古ではないことが推定されました(Credit:研究チーム)

 このようにザヴァケファレの発見は、このようにいくつもの点で重要ですが、最も重要な点を挙げるならば、それは頭蓋骨の形状です。ザヴァケファレの頭蓋骨は前部が丸いドーム状、後部が平らなテーブル状となっています。

 これまでの研究で提唱されてきた根強い仮説として、「パキケファロサウルス類は原始的であるほど平らな頭を持つ」というものがありました。実際、今回の研究でも、ザヴァケファレより新しい約7000万年前に生息していた「ワンナノサウルス・ヤンシエンシス(Wannanosaurus yansiensis)」は、頭頂部が平らで、かつザヴァケファレより原始的な身体的特徴を保っていたことが推定されました。

 いずれにしても、ザヴァケファレはパキケファロサウルス類の中でも基盤的な位置付けになるようですし、より原始的なパキケファロサウルス類であるほどは頭が平らなことは、少なくとも部分的には正しいようです。

 しかし、ザヴァケファレよりも後に登場した、より進化的なパキケファロサウルス類でも、平らな頭頂部を持つ種が見つかっています。このように、パキケファロサウルス類の頭の形と進化の関係はかなり複雑なようです。

 このような主張が唱えられるのは、今回見つかった個体の頭の形状が、これ以上ほとんど変化しないと考えられるためです。発見されたザヴァケファレは2歳と若い個体ですが、頭蓋骨の骨密度が高いため、大人へと成長してもドームの形が変わらないと推定できます。

ドーム状の頭蓋骨は何に使われていたのか?

 冒頭で書いた通り、パキケファロサウルス類が分厚い頭蓋骨を持ち、周りに装飾をもつようになったのは、群れの中での順位を決定したり、繁殖相手へのアピールに使われていたという説があります。

 今回の発見だけでこの説を肯定・否定することはできませんが、2歳と若い個体が既に大人と変わらない頭蓋骨を持っていたことは示唆に富みます。例えば、ザヴァケファレは身体が成熟する前に、闘争や繁殖のための特徴を獲得していた、あるいは成長の早い段階で繁殖可能だった可能性もあるためです。

 今回のザヴァケファレの発見は重要ですが、ドーム状の頭蓋骨は何に使われていたのかなど、大きな謎はまだ未解明のままです。また、最も古いパキケファロサウルス類の化石とはいえ、まだまだ時間的なギャップも大きいままです。今後の発掘調査次第で新たな化石が見つかれば、長年の謎への答えが出てくるようになるでしょう。

参考文献

Tsogtbaatar Chinzorig, et al. “A domed pachycephalosaur from the early Cretaceous of Mongolia”. Nature, 2025. DOI: 10.1038/s41586-025-09213-6

“最古の頭突き恐竜化石、新属新種「ザヴァケファレ・リンポチェ」を発見〜謎の恐竜グループの『ミッシング・リンク』発見〜”.(Sep 18, 2025)岡山理科大学 & 福島県立大学.

James Ashworth.(Sep 17, 2025)“New dome-headed dinosaur species is the most complete pachycephalosaur ever found”. Natural History Museum.

古知累すすむ.(Sep 18, 2025)“新種パキケファロサウルス類「ザバケファレ・リンポチェ」命名!最古のドーム、胃石、進化の謎を専門家が徹底解説【古知累すすむ/恐竜研究者/男性Vtuber】”.YouTube.



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