ライドシェアリングとはそもそも「相乗り」という意味だが、その発端は1970年代に起こったオイルショックによって、自家用車の使用を節約しようというところなのだそうである。欧米では政策として推進されたこともあるが、日本ではバス補間が主流となり、それほど流行しなかった。
90年代にも欧米では通勤通学の合理的な手段として利用が続いていたが、インターネット時代になり、次第に利用者をソフトウェアによってマッチングさせるシステムが登場してきた。
現在一般的にライドシェアとして知られている、一般の運転者が乗客を乗せて賃走するサービスになったのは、米Uberや米Lyftの前身サービスが誕生した2009年ごろからである。
筆者もライドシェアは、ラスベガスと北京で利用したことがある。どちらも大都会であり、利用者数に対してタクシーの数が圧倒的に不足することから、こうしたサービスは支持を得た。旅行者にしてみれば、言葉が不自由な外国でもアプリだけで呼べて、目的地も設定でき、現金決済もないという点では、一般のタクシーに乗るより便利である。
日本でも、都市部のタクシー不足は深刻化していた。以前住んでいたさいたま市でも、駅からのバスが終わると、タクシー乗り場に長蛇の列ができた。30分以上待つことが常態化していたが、筆者は30分あれば歩いても帰れるので、列の長さとタクシーの状況を見て断念すると、とぼとぼと歩いて帰ったものである。
日本でタクシー供給不足の一環として、「日本版ライドシェア」を導入したのは、2024年のことである。ただ米国型のような、個人事業者ベースではなく、タクシー会社に所属する普通免許ドライバーが自家用車を運用するという形になった。タクシー会社の強行な反対があったことから、こうした格好になったと聞いている。
昨年の夏、筆者は福岡市で日本版ライドシェアを利用する機会に恵まれた。そのドライバーは夜にバーを営業しているというが、昼間の空いた時間に副業としてライドシェアをやっているということだった。タクシー会社での研修も受けたという。紙のおしぼりを出してくれたりと、一般のタクシーにはないサービスも行っていた。
ドライバーの評価も投稿できるが、米国や中国のように、対応が良かったドライバーを指名して配車予約できたり、優先配車されるといったアドバンテージが発生するわけではない。タクシー会社としてサービスに問題なかったかどうかを見張るような、後ろ向きな評価の利用方法である。
筆者の住む宮崎市内でも、25年からライドシェアが導入された。コロナ禍を機会にタクシードライバーが大量に退職・廃業してしまい、冬のプロスポーツキャンプシーズンなど、一時的な観光客増加に対応できなくなっていた。2月に期間限定でスタートしたのち、4月からは曜日と時間帯を限定した形で正式にスタートした。
ドライバーはタクシー会社に登録した普通免許所持者だが、一般の日本版ライドシェアと違うのは、使用する車両がタクシー車両であることだ。何せ退職者が大量に出たことで、タクシー車両がものすごく余ってしまっているのだ。自前で車両を用意しなくてもいいという点では、働く側にもメリットがある。見た目から流しのタクシーと間違われないよう、表示を隠したり大きなステッカーを貼ったりして、違いが分かるようになっている。
ただしアプリでその場で呼べるようなものではなく、電話での事前予約である。その時に、乗車地と目的地から料金を算出し、合意できれば予約完了となる。決済は現金もしくはQRコード決済で、それ以外は電話予約時に申し出る必要がある。日本版ライドシェアからもかなり遠いサービスであるが、既存システムそのままで早く始めるには、致し方ない。
昨年日本で始まったライドシェアには、もう一つのスタイルがある。俗に「公共ライドシェア」と呼ばれるものだ。
これは人口過疎地域を抱える自治体が運行主体となり、路線バスの減少や廃止が行われた、いわゆる交通空白地帯に対応するために導入するものである。日本版ライドシェアと違い、営利事業ではないため、ドライバーへの支払いは給与や賃金ではなく、実費精算という形になる。従ってドライバーは、ボランティアということになる。
これまでは近所の元気なお兄ちゃんが、お年寄りのために街に行くついでに軽トラに乗っけて病院まで連れて行くみたいなことだったが、それをもう少し合理的に整理して、実費ぐらいはきちんと精算できるようにしようというわけである。
とはいえ、自治体が管理するとなると、面倒なことが起こる。主体となっている自治体の外で利用できないということだ。街の外に連れて行くことはできるが、帰りのお迎えができない。そんなばかな、と思われるかもしれないが、自治体は連携協定でもない限り、区域外にて自治活動ができないという原則がある。
そこで国土交通省では2026年度をめどに、自治体を越えた広域の公共ライドシェアができないかと模索している。方法論としては、自治体をまたいだNPO法人や協同組合的なところを運営主体にしたり、都道府県や第三セクターを運営主体とすることで、市町村単位を越えていこうというわけだ。これで街の病院に通うお年寄りも、帰りもお迎えが来てくれるというわけだ。
もう1つの課題は、配車の手配である。現在はボランティアベースなので、事前に予約しておかないと手配がつかない。だが診察終わりで迎えに来てほしいといったパターンだと、何時に終わるのかも分からず、前もって予約することは現実的ではない。そこでアプリなどを使う、直前申し込みのシステム運用が必要になる。
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