米国司法省が米Googleを独占禁止法違反と認定し、その是正案として同社ブラウザ「Chrome」の売却を求めていたが、9月2日の米連邦地方裁判所はこの事業分割案を退けた。
この分割案が棄却される以前、AI検索大手の米Perplexityが、約5兆円でChromeを買収するという提案をしたのも記憶に新しいところだ。もしこの買収が成立していたら、Webのブラウジング体験が大きく変わる可能性があった。
その片鱗は、Perplexityが開発しているAI対応ブラウザ、「Comet」に見ることができる。これまではPerplexityの有料Maxプランのユーザーにのみ提供されてきたCometだが、10月8日より無料で提供されるようになった。いつまで無料で利用できるのかは未定だが、Chrome分割案がなくなったことから、Perplexityが打った次の一手、ということかもしれない。
前回はゼロクリック検索の将来像について述べたところだが、今回はその実例として、実際にAIを間に挟むことによってWebのブラウジング体験がどのように変わるのか、試してみた。
Cometは「Chromium」ベースなので、Chromeの拡張機能やブックマークなどがそのまま移行できる。出来としては一般的なChrome互換ブラウザと同じである。
新規タブを開くと、PerplexityのAIアシスタントが待ち構えている。ここに知りたいことを入力すると、AIアシスタントがあなたに代わって関連サイトを巡回し、情報をまとめた状態で提示してくれる。
一例として、「左右セパレート型のメカニカルキーボードの人気モデルをAmazonで探して、レビューの評価と価格を分析してください」という質問を投げてみた。あっという間に調査して結果を提示してくれる。個人的には、Amazonのリンクを示してくれると助かったのだが。
ここで提示されたキーボードの型番を選択すると、「フォローアップに追加」と「ソースを確認」という表示が現れる。「フォローアップに追加」は、検索欄に選択したワードが貼り付けられるので、続いて質問する際にこのワードを参考にするのだろう。
「ソースを確認」を選択すると、調べた情報がどの情報に基づいたものなのかを確認できる。これによれば、Amazonのレビューを直接調べたわけではなく、「おすすめキーボード〜」といった記事を参照しているようだ。それはインチキじゃないのか。
実際にAmazonのレビューを参照して分析するように「Amazonでのレビューを参照していませんね。やり直してください」と鬼詰めしてみたが、今度は実際にAmazonで購入した人のレビューサイトを調査してきた。価格情報はおもに価格.comから取ってきているようだ。
もしかしたらAmazon側でAIの探索を蹴っているという可能性もあるが、そこそこの結果は出してくるので無能ではないんだけど油断すると手を抜いてくるアシスタント、といった印象である。人間でも時々こういう人がいる。
検索エンジン自体がPerplexityに置き換わっているので、通常のGoogle検索のようにキーワードを入力してサイトを検索するということ自体も一苦労である。これが常態化すると、本当に各Webページを来訪するということ自体が行われなくなる可能性がある。
どうにかサイトにたどり着けば、そこの表示は普通のブラウザと同じである。だがそこからがCometの本領発揮だ。上部ツールバーの「現在のウェブページを要約する」アイコンをクリックすると、右側にアシスタントページが開いて、そのページの要約が表示される。
試しに以前執筆したAI検索に関する記事を要約してみたが、内容としては悪くない。ただ、この記事は3ページに渡っているが、それ全体を調べてくれるわけではなく、あくまでもこのページ内のみの要約である。日本のニュースサイトは特にこうしたページ分割掲載の傾向が強いが、将来的にはこうした複数ページに渡る記事の要約にも対応してくるだろう。
YouTubeなどの動画サイトにおいても、動画の要約をあっという間に表示してくれる。筆者の個人的な動画を要約させたのだが、当然事前に読み込まれて解析されていたわけではないだろう。それでもあっという間に内容の要約を提示してくれる。AI検索の手を逃れるために、当面は動画での情報発信は安泰かと思われたが、そうでもなかった。
「アシスタントライブラリ」も可能性のある機能だ。これはあるテーマに沿っての調査を自動的に行ってくれる、ある種のプリセットである。ただ現状、うまく動くものと動かないものがあるのは、まだまだ発展途上の機能だからだろう。
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