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AIがWebを要約する時代へ 無料になったパープレのブラウザ「Comet」を試す その可能性と課題とは小寺信良のIT大作戦(2/3 ページ)

» 2025年10月16日 10時00分 公開
[小寺信良ITmedia]

OSの違いによる体験の差

 Cometの重要な機能の1つが、右側のツールバーにある「ディスカバー」である。ここではテーマ別にネットのニュース記事をAIがまとめ、見出しやサマリーを表示してくれる。

「ディスカバー」によるニュース記事画面

 筆者はこれまでニュースプラットフォームとして「Googleニュース」を中心に見てきたのだが、当然Googleサーチエンジンへの入力キーワードなどから推測されて、一定のフィルターバブルに囲まれているという意識はある。だがそれは自分の興味関心のない記事をフィルタリングするという行為の裏返しであり、ある意味そこに集められたニュースは、筆者としては「ハズレが少ない」ものであった。

 しかしCometのディスカバーによって集められてくる記事は、これまで見たことがない傾向の記事ばかりである。Googleのフィルターバブルから外れたせいもあるだろう。もう1つは、ほとんどが日本以外のニュースソースからの翻訳であるという点だ。突然全く別の世界に放り出されたような感じがする。

 ただ、見出しやサマリーに日本語としておかしい箇所が散見される。例えば日本企業に関するニュースとして、ソフトバンクグループによるスイスABBのロボティクス部門買収のニュースを取り上げてみる。

「ソフトバンクによるスイスABBロボティクス部門買収」のサマリー

 冒頭から『ソフトバンクグループ(SoftBank Group Corp.)は、ABB(ABB Ltd.)のロボティクス部門を53億7,500万ドルで決心する最終決着に達したと発表しました。』という文章で始まり、全く意味がわからない。肝心の「買収」という言葉の翻訳に失敗しているからだが、ここだけに限らず、サマリー文章の全編を誤訳が占めている。まるでディストピアを見ているようである。

 一方、サマリーのソースとされた英文記事のサイトに飛ぶと、ここからはGoogle翻訳によるページ翻訳が行われる。こちらの文章は問題なく翻訳されており、昨今のGoogle翻訳の精度はかなり高いことが確認できる。

サマリーの元記事のGoogle翻訳結果

 ここまでの記事は、CometのMac版を使用している。翻訳の精度を確認するため、今度はWindows版のCometで「ディスカバー」を開いてみた。展開される記事は同じだが、記事の翻訳サマリーのクオリティーに大きな差があることがわかった。上記ソフトバンクの記事も、問題ないレベルでサマリー化されている。

Windows版Cometの記事サマリー

 OS版の違いによって、翻訳能力に差が出ていることになる。もし翻訳がクラウド上で行われるのだとすれば、アクセスするOS版の違いによって差が出るとは考えられない。加えて、世界中で無数に行われる記事翻訳行為を全部クラウドでやっていたら、リソースがいくらあっても足りなくなる。おそらく翻訳は、ローカルマシン上で行われていると考えるのが妥当だろう。

 つまり現時点では、翻訳エンジンの出来がMac版とWindows版で大きく異なっているため、利用体験には大きな違いが出ている。Mac版のユーザーは、翻訳エンジンがアップデートされるまでしばらく待ったほうが賢明だろう。

AIがもたらす、これからの「ニュース読み」の姿

 とはいえ、この方法論による記事の集め方には、一定の価値がある。世界中の報道を網羅し、同じ趣旨のものを集め、数が多いものほど上位に、また記事枠の扱いが大きくなっている。世界で関心が持たれているニュースを一覧するには、効果的なやり方である。

 一方でこのやり方では、本稿のようなトレンドをリアルタイムで追うわけではないコラムなどは、まず拾われない。類似の記事がほぼないからだ。今後使い続けることで、ユーザーの傾向を把握し、ゆっくりとフィルターバブル内に囲い込んでいくというプロセスが存在するのかもしれないが、その傾向が強まれば、報道数でランキングするという機能とのバランスが問題となる。そのバランスも、AIがキュレーションしていくのだろうか。

 もう1つサンプルとして、「2025年には研究者のAI利用率が84%に急増」という見出しのサマリーを見ていく。こちらはMac版でも比較的誤訳が少なく、意味が通る文章になっている。

「2025年には研究者のAI利用率が84%に急増」というタイトルのサマリー

 サマリーの構成として、全体を3ブロックに区切り、それぞれが別ソースの記事の内容から文章が作られている。こうした方法論は、1つの話題が多面的に切り込まれているようにも見える。

 ただその一方で、こうしたニュースサマリーには報道として重大な欠陥がある。それは、「この記事をもって書き手が言いたかったことは何か」という視点が、綺麗に洗い流されてしまっていることだ。例えばある記事では、AI導入の高まりに期待しているかもしれない。またある記事では、何らかの警鐘のために書かれたかもしれない。それが「事実の切り口」という、ニュースの骨格になる部分である。

 「ニュースは事実だけでヨシ、お前の言いたいことなんかどうでもいい」という意見もある。だが文章の中にこうした芯がないと、文章としてつまらないものになる。結果的にそうした記事は、読まれない。「こいつ何言ってんだ」という反感であっても、それは心が動かされているわけであり、その文章にはエモーションを励起させる何かがある。一般の文章だけでなく、ニュースの中にもそういうものがあるのだ。

 一般にニュースとは、事実を文章化したものとされている。取材した素材には事実があるのみで、そこに解釈はない。記事化するプロセスで、解釈が生まれる。AIが作った記事のサマリーは、この解釈が削ぎ落とされることで、取材の素材状態に戻ってしまっている。

 これは読んでいて、実につまらない。

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