──とはいえ、題材はあの『邪神ちゃん』です。情報リテラシー教育で「ルールを守ろう」と教えるのに、最もルールを守らないキャラクターを起用するのはリスクがありませんか?
柳瀬:ある意味で適切、ある意味で不適切ですよね(笑)。
アニメ業界の中ではかなりSNSを使い倒している作品なのでSNSリテラシーを語る上では「適切」ですが、キャラクターの素行を見れば明らかに「不適切」です。あの子SNSで煽られると悔しくて現実世界で発信者を襲撃しますからね。
普通なら「こんなやつから何を学ぶんだ」となります。
伊藤:情報教育の視点から言うと、まさにそこが狙い目でした。従来の「正攻法」の教材──つまり「こういうことは危険だからやめましょう」と正論を説くような動画は、生徒が見てくれないんです。面白くないし、説教臭いですから。
そこで目をつけたのが、『邪神ちゃん』の「フォーマット」です。
──フォーマット、ですか
伊藤:はい。この作品は基本的に「邪神ちゃんが調子に乗って何かをやらかし、ゆりね(同居人の女子大生)が『そうじゃないでしょ』と制裁(ツッコミ)を加える」という様式美で成立しています。
この構造が、教育における「メタ認知」のプロセスと非常に相性が良いんです。視聴者は、邪神ちゃんの失敗を見て「あ、これはダメなんだ」と客観的に気付き、ゆりねの指摘で理解を深める。
自然と自分を客観視するメタ認知が働き、これまでの行動を振り返って「次から気をつけよう」という行動変容が促されるのではないかと考えています。
試しに自分で脚本を書いてみたのですが、キャラクターを無理に更生させることなく、いつものノリのままで教材として成立しました。
柳瀬:いわゆる「ゆっくり解説」のような、定型の強さですね。台本を伊藤先生が書かれたのですが、原作者のユキヲ先生も一発OKを出すほどの完成度でした。「不適切」なキャラクター性は、このフォーマットの力で「適切」な学びに変換できたと考えています。
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