このコーナーでは、2014年から先端テクノロジーの研究を論文単位で記事にしているWebメディア「Seamless」(シームレス)を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。
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中国の新郷医学院第一付属医院などに所属する研究者らが発表した論文「Association between muscle strength and dementia in middle-aged and older adults: A nationwide longitudinal study」は、筋力と認知症発症リスクの関連性を調査した研究報告だ。
世界的な高齢化の進展に伴い、認知症患者の数は増加の一途をたどっている。現在、世界では5500万人以上が認知症を抱えており、その予防や早期発見に向けた取り組みがますます重要になっている。
この研究では、高齢化を探究する英国の研究機関「The English Longitudinal Study of Ageing」(ELSA)のデータを用い、50歳以上の5916人を中央値で9.2年間追跡。筋力の指標として、対象者の握力とBMIや体重で標準化した握力、下肢筋力を反映する椅子立ち上がり時間を分析し、認知症との関連を探った。なお追跡期間中に197人、全体の3.33%が認知症を発症した。
分析の結果、握力が低い群では認知症発症リスクが約2.84倍に上昇することが明らかになった。BMIで標準化した握力が低い群でも約2.20倍のリスク上昇が認められた。
さらには下肢筋力との関連も見られた。椅子から立ち上がるのに時間がかかる下肢筋力が弱い群では、認知症リスクが約2.75倍高かった。これらの関連は中年層と高齢層、男女いずれにおいても一貫して観察され、ベースラインから2年以内に認知症と診断された参加者を除外した感度分析でも結果は変わらなかった。
この研究は、上肢だけでなく下肢の筋力も認知症リスクと強く関連していることを示した。筋力の維持が認知症予防において重要な役割を果たす可能性があり、中高年における筋力トレーニングの介入戦略や認知症リスク評価の視点を提供するものといえる。
Source and Image Credits: Wei Jin, Sheng Liu, Li Huang, Xi Xiong, Huajian Chen, Zhenzhen Liang, Association between muscle strength and dementia in middle-aged and older adults: A nationwide longitudinal study, Journal of Psychiatric Research, Volume 191, 2025, Pages 189-197, ISSN 0022-3956, https://doi.org/10.1016/j.jpsychires.2025.09.043.
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