このコーナーでは、2014年から先端テクノロジーの研究を論文単位で記事にしているWebメディア「Seamless」(シームレス)を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。
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順天堂大学大学院医学研究科の西岡将基准教授、加藤忠史教授らの国際共同研究グループがNature Communicationsで発表した論文「Disturbances of paraventricular thalamic nucleus neurons in bipolar disorder revealed by single-nucleus analysis」は、双極症(双極性障害)の病態において、原因とされる脳部位を明らかにした研究論文だ。
双極症は躁状態とうつ状態を繰り返す精神疾患で、世界人口の約1%が罹患(りかん)するとされる。自殺リスクが高く社会的負担の大きい疾患であるが、その脳内病態は十分に解明されていなかった。これまでの研究は主に大脳皮質に焦点が当てられてきたが、MRI研究では視床体積の減少も報告されていた。
研究グループは双極症患者21人と対照者20人の死後脳から視床および大脳皮質の試料計82検体を採取し、単一核RNAシーケンス解析を実施。約38万個の細胞核を解析した結果、双極症では視床興奮性神経細胞、とりわけ視床室傍核神経細胞が約半数に減少していることが判明した。
また視床・大脳皮質を通じて最も遺伝子発現変動が大きかったのは「視床室傍核」と呼ばれる部位であり、シナプス伝達やイオンチャネル機能に関わる遺伝子群が顕著に低下していた。発現が低下した遺伝子にはCACNA1CやSHISA9など双極症の遺伝学的リスクと関連する遺伝子が多く含まれていた。
視床室傍核はセロトニン神経からの強い投射を受け、恐怖に関与する扁桃体や報酬に関与する側坐核へ投射する部位だ。マウスの実験では視床室傍核を抑制しても刺激しても反復性のうつ様行動を示すことから、今回見いだされた変化は双極症の結果ではなく原因であると考えられている。
今後は視床室傍核を標的とした脳画像診断法の開発や、動物モデル・iPS細胞を用いた機能解析を通じて新たな治療法の確立につながることが期待される。
Source: Nishioka, M., Sakashita-Kubota, M., Iijima, K. et al. Disturbances of paraventricular thalamic nucleus neurons in bipolar disorder revealed by single-nucleus analysis. Nat Commun(2026). https://doi.org/10.1038/s41467-025-68094-5
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