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米国に打って出るPayPay 甘くない巨大市場、Visaと探る攻略の糸口は(1/2 ページ)

» 2026年02月13日 09時00分 公開
[斎藤健二ITmedia]

 PayPayが米国市場に打って出る。米Visaと戦略的パートナーシップを結び、新会社を設立してモバイル決済事業を展開する構想だ。武器はQRコードとNFCの「デュアルモード」。だが米国には、年間1兆ドル超が流れる「Zelle」、アクティブアカウント9000万の「Venmo」、iPhoneユーザーの4分の3が使うApple Payといったサービスがすでに根を張っている。日本で7200万人を獲得したモバイル決済の雄は、この巨大市場で何を武器に戦うのか。

photo PayPayの累計ユーザー登録数が7200万人を突破したことを示す中山一郎社長(筆者撮影)

QRとNFCの「二刀流」で米国に挑む

 「われわれはモバイルペイメントをやっている。たまたまQRコードが日本では導入しやすかっただけだ」。2月12日の記者説明会で、PayPayの中山一郎社長はこう切り出した。

 PayPayとVisaが同日発表した戦略的パートナーシップの中身は、大きく2つ。日本国内の事業連携強化と、グローバル展開だ。その第1弾として掲げたのが米国市場への参入。PayPayが過半数以上を出資する新会社を設立し、Visaは投資やテクノロジー、人材の拠出に加え、コンサルティングによる支援も行う。

 米国で採る方式は「デュアルモード」と呼ぶ。日本で普及させたQRコード決済に加え、スマートフォンを端末にかざして支払うNFCのタッチ決済にも対応する。Apple Payなどタッチ決済が主流の米国市場を見据えた布陣だ。

photo 米国で展開する「デュアルモード」のイメージ。アプリ内でQRコード決済とNFC(タッチ)決済を切り替えられる

 初期ステップとしてはカリフォルニア州などの一部地域からQR加盟店のネットワークを構築し、段階的に展開する方針を示している。対象は在米日本人ではなく、米国の消費者である。

 ただし、具体的なサービス内容や提供開始時期は明かさなかった。州ごとに送金ライセンスの取得が必要となる米国の規制環境もあり、中山社長は「できるだけ早く目指したい」と述べるにとどめた。

個人消費9倍、だがQRは「不利」──米国市場の現実

 PayPayが米国を狙う背景には、市場規模の圧倒的な差がある。中山社長が説明会で示したデータによれば、米国の個人消費は約2600兆円で日本の約9倍。そのうち現金市場がなお約300兆円残る。デジタルウォレットの浸透率は2024年時点で24%にとどまり、30年には40%に達するとの予測がある。「事業を検討・開始するに十分な市場だ」と中山社長は語った。

photo 米国の個人消費は約2600兆円で日本の9倍。デジタルウォレットの浸透率は2024年の24%から2030年に40%へ拡大する予測を示した

 数字だけを見れば、確かに巨大な「余白」がある。しかし米国のモバイル決済市場は、日本とは構造が根本的に異なる。

 主戦場はタッチ決済だ。米国のデジタルウォレットによるNFC取引額は、23年の1790億ドルから28年には4510億ドルへ拡大する見通しとされる。Visaの最高製品・戦略責任者ジャック・フォレステル氏によれば、Visa加盟店における対面決済も79%がタッチで行われているという。

 一方でQRコード決済については、タッチ決済より操作手順が多く、静的QRコードには不正リスクもあると米消費者金融保護局(CFPB)の報告書で指摘されている。PayPayが日本で成功の礎としたQRは、米国では不利な土俵なのだ。

 競合の壁も厚い。銀行アプリに組み込まれた個人間送金のZelleは24年に年間送金額が1兆ドルを超え、登録アカウントは1億5100万に達した。利用の大半が銀行アプリ経由で、スタンドアロンのアプリは取引のわずか約2%にすぎない。銀行インフラと一体化した決済網を、外部から崩すのは容易ではない。

 店頭決済ではApple Payの存在感が際立つ。22年時点の店頭支出は推定1990億ドル、iPhoneユーザーの約4分の3がApple Payを有効化しているとされる。このほかVenmoが約9000万アカウント、Cash Appが月間取引アクティブ5700万人と、いずれも数千万規模のプレイヤーがひしめく。

 中山社長は質疑応答でこうした競合との差別化を問われたが、具体的な方策には踏み込まなかった。フォレステル氏は「米国にはまだ現金決済が残っている。チャンスは巨大だ」と市場の可能性を強調しつつも、競合の多さについては率直に認めた。

Visaから見たPayPayの魅力──「体験への徹底したこだわり」

 これだけの競合がひしめく市場に、PayPayが単独で乗り込むのは現実的ではない。Visaと組んだのは、その「足場」を得るためといえる。一方で、Visa側からもPayPayは魅力的に映っているようだ。

 フォレステル氏は提携の狙いについて「ローカルで愛されるウォレットブランドを、自国の市場を離れてグローバルに展開できるようにすることだ」と語った。Visaのネットワークにつながれば、PayPayのユーザーは世界1億7500万以上の加盟店で決済できるようになる。消費者は「使い慣れた体験のまま、行動を変えずに使える」とフォレステル氏は繰り返した。

 技術面での連携も具体性がある。Visaが提供する「Flexible Credential」は、1枚のVisaカード(クレデンシャル)にクレジット、デビット、プリペイドなど複数の支払い手段を集約し、アプリ上で切り替えられる仕組みだ。日本では三井住友フィナンシャルグループの「Olive」で先行実装されている。PayPayにもこの技術を適用し、国内の決済体験を進化させるとともに、米国展開の基盤技術としても活用する。

photo PayPayカード、PayPay残高カード、PayPay銀行デビットの3種を、Visaの「Flexible Credential」技術を用いて1枚の「新しいPayPayカード」に統合する構想だ
photo PayPayの3つの決済手段(プリペイド・デビット・クレジット)を単一のVisaクレデンシャルに集約する仕組みを説明するフォレステル氏

 フォレステル氏は「PayPayの強みは体験への徹底したこだわりにある。ユーザーにも加盟店にも、楽しく信頼できる体験を提供してきた。それを支えるスピードとテクノロジーだ」と評した。Visaにとっても、PayPayとの連携はカードという従来の形にとらわれず、デジタルウォレットやQRエコシステムへネットワークを広げていく戦略の一環に位置付けられている。

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