2019年にスタートした本連載「Innovative Tech」は、世界中の幅広い分野から最先端の研究論文を独自視点で厳選、解説する。執筆は研究論文メディア「Seamless」(シームレス)を主宰し、日課として数多くの論文に目を通す山下氏が担当。イラストや漫画は、同メディア所属のアーティスト・おね氏が手掛けている。X:@shiropen2
米ニューヨーク大学や米ユタ州立大学などに所属する研究者らがPNAS誌で発表した論文「Negative social ties as emerging risk factors for accelerated aging, inflammation, and multimorbidity」は、生活にストレスをもたらす負の人間関係が、細胞レベルでの老化を実際に加速させるリスク要因であることを明らかにした研究報告だ。
いつも面倒を持ち込んだり、一緒にいるとどっと疲れてしまったりする厄介者との関わりが、生物学的な老化を実際に早めてしまうという。米インディアナ州の成人2345人を対象としたこの調査では、参加者の唾液からDNAを採取し、加齢のペースを測る「エピジェネティック・クロック」を用いて個人の生物学的な老化度を測定した。
同時に、参加者の人間関係について詳しく調査したところ、生活に問題を起こしたり面倒を持ち込んだりする厄介者が身近に少なくとも1人いると答えた人は、全体の約30%に上ることが分かった。
データによれば、身近な厄介者が1人増えるごとに、生物学的な老化のペースは約1.5%加速し、同じ暦年齢の同年代と比べて体が約9カ月分も老け込むことが示された。この老化への悪影響は、喫煙がもたらすダメージの13〜17%に相当する規模だ。
誰が厄介者なのかによって受けるダメージの強さは異なる。最も老化を早める関連が強かったのは、親や子ども、兄弟といった親族だった。親族関係は義務感が伴いやすく、簡単には縁を切ることができないため、逃げ場のない慢性的なストレスとして体に蓄積しやすいと考えられる。また、職場の同僚などの非親族の場合も、長期的な老化リスクを有意に高めることが分かった。
一方、配偶者やパートナーが厄介者である場合は、老化の加速との明確な関連は見られなかった。これは、夫婦関係には衝突などのマイナス面だけでなく、日常的なサポートや愛情といったプラスの要素も複雑に混在しており、ストレスの悪影響がうまく相殺されているためだと推測される。
また、女性や日常的な喫煙者、健康状態が優れない人、子どもの頃につらい体験を持った人、周囲から頼りにされている(依存)と感じる人ほど、こうした厄介者をネットワーク内に抱え込みやすいという偏りも示されている。
老化の加速にとどまらず、うつ病や不安の悪化、BMIの上昇、全身の炎症レベルの増加など、多岐にわたる健康被害と連動していることも確認されている。
Source and Image Credits: B. Lee,G. Ciciurkaite,S. Peng,C. Mitchell, & B.L. Perry, Negative social ties as emerging risk factors for accelerated aging, inflammation, and multimorbidity, Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 123(8)e2515331123, https://doi.org/10.1073/pnas.2515331123(2026).
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